公開から25年以上経ってもなお、色褪せない作品「紅の豚」。第一次世界大戦を終えたイタリア・アドリア海で繰り広げられる、浪漫溢れる映画です。
ただ、そう表現すると少しハードルが高く感じられますが、出てくる登場人物は子ども心を残した大人ばかり。もしかしたら「天空の城ラピュタ」に登場するパズーの方が大人に思えるかもしれません。
なぜポルコは豚になったのか?飛行艇乗りのマドンナであるジーナ、彼女のポルコに対する思いとは?若いながらに大人顔負けの度胸を持つフィオや、どことなく憎めないマンマユート団。今回は、登場人物のキャラクター性について紐解いてゆきましょう。
※以下からは『紅の豚』のネタバレを含みます。これから観ようと思っている方はご注意ください。
1. 映画の原作となったのは、雑想ノートの「飛行艇時代」
そもそも、映画「紅の豚」ははじめから映画をつくろうと思ってつくられたものではありません。月刊模型雑誌「モデルグラフィックス」の連載漫画、宮崎駿の雑想ノートの「飛行艇時代」が原案となっています。
2013年公開の「風立ちぬ」からもわかるように、宮崎駿監督は大の飛行機好き、しかも軍事マニア。「紅の豚」の中では、彼の趣味ともとれる飛行機の描写がたくさん散りばめられており、登場人物の年齢設定からも、子どもではなく大人に向けてつくられた作品であることは明らかでした。
それまで子どもたちに向けて映画をつくり続けてきた宮崎駿監督にとって、この作品をつくって本当によかったのか、とあとから悩まされることになったのだとか。今から思えば、風立ちぬも同じ傾向にありますが、紅の豚の前に発表したのが「魔女の宅急便」、その次が「耳をすませば」だったことからも、当時この作品が異色であったことがうかがえます。
2. ポルコ・ロッソとは誰なのか?なぜ豚の姿に?
宮崎駿監督は「紅の豚」の演出覚書で、「主要な登場人物が、みな人生を刻んで来たリアリティを持つこと。
バカさわぎは、つらいことをかかえているからだし、単純さは一皮むけて手に入れたものなのだ」と、人物描写は氷上の水上部分だと心得て手抜きは禁物だとしています。☞続く #紅の豚 #秋のジブリ pic.twitter.com/1N0SQu0VdH— アンク@金曜ロードSHOW!公式 (@kinro_ntv) November 2, 2018
原案では、イタリア海軍退役パイロットという設定のみだったポルコ。名前はマルコ・パゴットで、年齢不詳でした。それが映画だとより細かく設定され、1893年生まれ(推定36歳)、17歳で単独飛行の経験を持ち、第一次大戦中はイタリア海軍大尉でエースだったというプロフィールが加わります。
見た目からは年齢が想像できませんが、実は意外と若い。公開当時宮崎監督は50歳前後ですから、同い年の男性を描いたわけではなく、一回り年下の男性を主人公にしたのです。
彼の謎といえば「豚であること」ですが、映画の中で明言されなくとも推測することができます。
戦争中、ジーナの夫でもある自身の友人を助けることができず、また戦争という人間が生んだどうしようもない争いに、ほとほと疲れ果てた彼もまた人間だという葛藤。エースとして活躍した過去を持ちながら、再び軍隊には戻るまいと自分自身に罰を科しているように見えます。
適当に生きているように見えて、約束を守る律儀さがあったり、かと思えばジーナの思いを知り真っ赤になってしまったりと、様々な顔を持つ主人公です。
3. 若さの象徴であるフィオ
フィオさんの声は「ONE PIECE」のナミ役などでもおなじみの岡村明美さん。フィオさんは必要なことだけバババッと言う性格なので、「(岡村さんの)セリフのぶっきらぼうさが良かった」と宮崎駿監督から言われたそうです。#kinro #紅の豚 #秋のジブリ pic.twitter.com/1SPs0iIKMl
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一方、ポルコと対比的に描かれるのは17歳の少女フィオ。ミラノの飛行艇製造会社ピッコロ社の経営者の孫娘です。
彼女の父親は元空軍のパイロットで、大戦中はポルコと同じ軍隊に所属していました。若さならではの飲み込みの早さや、元来持つ設計の才能をポルコに見込まれ、壊れてしまったポルコの愛機を修理したことから物語に加わっていきます。
人生で、やり直すことのできない後悔を経験したポルコ、感情を表にださないジーナとも対照的に描かれるフィオ。彼女にはこれから広がる未来があるからこそ、屈託なく笑い、真っ直ぐな正論でポルコやマンマユート団にぶつかり、結果その魅力の虜になってしまう大人の男たち。作中の若さ、明るさの象徴でもあるようにも感じます。
4. 秘密の賭けを楽しむマドンナ、ジーナ
ジーナがホテルのバーで歌う「さくらんぼの実る頃」の音源は、青山のロシア料理屋さんで収録。このシーンを前もってビデオで撮っておき、それを参考に宮崎監督は絵を描こうとしたそうです😀フランス語で歌う加藤さんの口の動きをそのまま“再現”されているジーナに注目ですー😆❤️ #ジブリ #ジーナ pic.twitter.com/wGbS8plCUu
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飛行艇乗りのマドンナであるジーナ。「飛行艇乗りは必ずジーナに恋をする」と言われているほどですから、その魅力は他の女性と一線を画しています。唯一ポルコのことを本名(マルコ)で呼ぶ人物で、その特別な関係性は映画のいたる箇所で見て取ることができます。
彼女の印象的なシーンといえば、アメリカ人のカーチスに口説かれるもきっぱり断るシーン。甘い言葉、ハリウッドという華やかな言葉に一切心を動かされていない様子は、映画を観たことある方ならわかるはず。彼女にとって大事なことはもちろん彼女にしかわかりませんが、ポルコ(マルコ)を大切に思っていることは伝わってきます。その思いの行方を自分で決めるのではなく賭けに委ねるところが、ジーナをより魅力的にみせているのかもしれません。
5. 映画の中で一番気持ちのいい男、マンマユート・ボス
ピッコロさんの声を演じているのは桂三枝(現・文枝)さん、空賊のマンマユートのボスを演じているのは上條恒彦さんです。上條さんはその後、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」にも出演されています。#kinro #紅の豚 #秋のジブリ pic.twitter.com/LmtGfQIyp4
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この映画を観て、マンマユート団のボス、マンマユート・ボスを好きになる人は少なくないでしょう。宮崎駿監督も「マンマユートのボスがね、映画の中で一番気持ちのいい男なんですよ。最後にはきちんとけじめもつけるし」と言うほど。三鷹の森美術館のミュージアムショップの看板キャラクターにもなっています。
フィオに自分たちの落ち度を指摘されたときも素直に認め、幼い子供を「全員」さらう理由は仲間はずれが出たらかわいそうだから。憎めないキャラクターが、天空の城ラピュタの空賊たちを彷彿とさせます。悪者のような立ち位置であってもつい微笑んでしまう、そんな優しさを感じるのが紅の豚という映画なのです。
大人だからわかる子ども心
歳を重ねるにつれ、自分の心に素直になれないことも増えてくるかもしれません。そんなときに紅の豚を観ると、不器用でも自分のポリシーを持って生きている大人たちをみて、少しくらい格好悪くても自分が納得できていればそれでいいよ、と優しく背中を後押ししてくれる作品だと思います。
後日談を想像できる楽しみも、この作品ならではです。
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ポルコが豚になったわけは?
本当に素晴らしく、美しく、ちょっぴりほろ苦い優しい物語!
慌ただしい現実、生活の中で思わず立ち止まって空を見上げてしまう様な
思ってるほど世の中悪くないと思わせてくれるような
大好きな作品です!