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【なぜレモン?】米津玄師『Lemon』の歌詞の意味を祖父の死から考察

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2018年の代表曲ともいえ、YouTubeでの再生回数は19年6月時点で6億回を突破した米津玄師さんの『Lemon』。TBSドラマ『アンナチュラル』の主題歌として書き下ろされたわけですが、ドラマ自体も高く評価され、数々の賞を受賞しました。

法医学に焦点を当てた『アンナチュラル』は、単なるサスペンスではなく、人間にとって一番身近でありながら生きているうちは経験し得ない「死」と、それと切り離せない「生」をテーマに描かれ、毎話『Lemon』が流れるタイミングに鳥肌がたった方も多いのではないでしょうか。

ドラマに寄り添いながら、楽曲そのものとしても多くの人の心に残る名曲となった『Lemon』。今回は、発売当時のインタビューから、この曲に秘められた意図を読み解いていきます。

実体験を超えた先に生まれた曲

『Lemon』のリリース以前にも、実は「死」をテーマに扱ったことがあるという米津さんですが、楽曲製作中に祖父を亡くした経験は、この楽曲を語る上では欠かせない重要な経験だと、様々なインタビューにて発言しています。

脚本を読んだり、編集中の映像を観る中で、ドラマ制作陣からのリクエストとして印象的だったのは「傷付いた人を優しく包み込むようなものにしてほしい」というオーダーだったと、米津さんは音楽ナタリーでのインタビューにて語っています。ただ、結果的にそうはならず、「あなたが死んで悲しいです」とずっと言っているだけの曲になった、とも。

例えば、「じいちゃんとはそんなに頻繁に会ってはなくて。昔は田舎に帰省したときに会って話したりしてたんですけど、最近はとんとなくて。じいちゃん、俺が20歳になる前には認知症が出て、ひさしぶりに田舎に行ったときにも俺のことを覚えてなくて、それは仕方のないことだと思うんですけど……そうやって徐々にいろんなものを忘れていく、いろんなものをなくしていく感じだったんです(同インタビュー)」という発言。彼にとって、近しい人の死がいかに印象的な体験だったかということがわかります。

また、こんな発言も。

「こう言うのも変な話かもしれないですけど、じいちゃんが“連れて行ってくれた”ような感覚があるんです。この曲は決して傷付いた人を優しく包み込むようなものにはなってなくて、ただひたすら『あなたの死が悲しい』と歌っている。それは自分がそのとき、人を優しく包み込むような懐の広さがまったく持てなくて、アップダウンの中でしがみついて一点を見つめることに夢中だったので、だからこそ、ものすごく個人的な曲になった。でも自分の作る音楽は『普遍的なものであってほしい』とずっと思っているし、そうやって作った自分の曲を客観的に見たときに『普遍的なものになったな』っていう意識も確かにあって。それは、じいちゃんが死んだということに対して、じいちゃんに作らせてもらった、そこに連れてってもらったのかなって感じもありますね(同インタビュー)」

死を経験したことで、自分だけではつくり得なかったものができ上がったという気持ちと、経験した人だから描ける痛さ、痛切な想いが詰まっているように感じます。

『Lemon』の意味

もともとの仮タイトルは「メメント(Memento)」でしたが、米津さんはその表現が過剰だと感じていました。そんな時に、ふと思いついた「胸に残り離れない 苦いレモンの匂い」というフレーズ。本人もなんでこのフレーズが出てきたのかわからなかったそうですが、同時に明確に「これだ」という確信もあったといいます(同インタビュー)。

ほかに当てはまる言葉を考えたものの、最終的にレモンにたどり着いたとのこと。印象的な「切り分けた果実の片方の様に」というフレーズも、悲しい気持ちに通じるもの。ただ元は、1つのレモンだったという変えることのできない事実が昇華された言葉ですね。

ステップを踏むようなリズムで、死の輪郭をなぞる曲に

死というテーマがあるけれど、決して悲しい曲調ではなく、朗らかさすら感じる曲調もこの曲の特徴。米津さんも、ただ辛気臭いだけの曲にはしたくなかったそうです。

「そもそもドラマの脚本や第1話の映像を観たときに感じた、最初のインスピレーションにも通じるものがあって。ただ死を扱うだけじゃなく、すごくテンポがよくて、コメディっぽい側面もあるし、ドラマの登場人物たちが人間の死を身近に捉えている。なじみのない人からするとグロテスクな瞬間なんですけど、解剖をしながら笑いあったり、その次のシーンで普通に肉を食べていたりする。だから、ひたすら辛気臭い、ただのバラードには絶対したくなくて。ひたすら死だけを見つめていったところで、死の美しさは絶対に表現できないと思うんですよ。そうではなく、死というものがそこにあるとしたら、それはあえてあやふやなままにしておいて、歌詞にもあるんですけど、『輪郭をなぞる』ことによって現れるものがある。そうでなければ表現できないことが絶対にあると思うんですよね。ただひたすら悲しく、暗く、もっともらしい感じで人間の死を歌う曲では絶対に表現できない死というものがあると思って。だから、ステップを踏むようなリズムで、跳ねてる曲、踊るようなリズムで人間の死をなぞるような曲というイメージがありました(同インタビュー)」という発言も。

死が悲しく、動かしようのない大きなテーマであるからこそ、優しく寄り添う『Lemon』が誕生したとも言えますね。

果物と米津玄師

レモンは果物ですが、米津氏の楽曲では他にも果物をテーマに作られたものがあります(『こころにくだもの』、『あたしはゆうれい』)。

それは人間と果物は似ている、という観点からだそう。「Billboard JAPAN」でのインタビューでは、以下のように語っています。

「果物って色鮮やかで、見た目が美しいじゃないですか。それが個人的には人間に似てると思うんですよ。皮があって、肉があって、種があるっていう、その構造自体が人間の体と共通してるっていうか。音楽って人と人とのコミュニケーションだし、自分はだいたい人間のことを歌っている。その人間っていうものを、別のものに置き換えることによって、それでしか表現することのできない美しさってあると思ってて」。

言われてみるとその通りではありますが、果物と人間を要素として捉える着眼点が、米津さんらしいのかもしれません。

「自分が自分でいられないほどの悲しみ」に直面したとき、思い出したい曲

キャッチーな曲調ではあるものの、つくった本人が言うように、逃れられない悲しさが全面に出ている『Lemon』。「戻らない幸せがあることを、最後にあなたが教えてくれた。言えずに隠してた昏い過去もあなたがいなきゃ永遠に昏いまま」。誰かの死によって経験する痛み、悲しみは、どんな出来事、どんな人物でも上書きはできません。誰かが存在することで救われたことがあったとしたら、その存在がなくなってはどうしようもないのです。

思い出も時が経てば振り返ることができるかもしれませんが、経験した悲しみを超える悲しみは、もしかしたら自分の人生にはもうないかもしれない。それはある種の絶望となり、自分自身を飲み込んでしまい、今までとは全く異なる感覚に陥るかもしれません。

ただ、その時に『Lemon』を心の片隅に置いておいてもらえたら、誰もが同じ痛みを持っているわけではありませんが、同じく「死」を経験した人だから描けた、悲しいけれど、優しい世界を感じることができます。

悲しい気持ちを上書きすることはできなくても、もしかしたら、その出来事を前向きに受け止められる日が来るかもしれません。

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