▼短い労働時間で多くの産業を築いた国:ドイツ
フォルクスワーゲンやアディダスなど、数多くの大企業を擁するGDPランキング4位(日本は3位)のドイツ。
大企業が存在するのは日本も同様ですが、二国の平均労働時間を比較すると、興味深い事実が浮き彫りになります。
日本の平均労働時間は週42.8時間(2010年/cao.go.jp)。それに対して、ドイツは平均週35.3時間(2013/oecd.org)です。
つまり、1週間で生まれる労働時間の差は、なんと約7時間。毎日忙しく働く日本人からすれば、ドイツの平均労働時間がこれだけが短いにも関わらず、有名企業が生み出されることが不思議に思えるのではないでしょうか。
そんな謎を探って行く上で注目すべきは、ドイツ人の仕事に対する価値観。日本にはない仕事に対する考え方が、ドイツ人の高い生産性を理解する鍵になります。
▼仕事と私生活の完全な分離
ドイツでは、基本的に仕事と私生活が完全に分離されています。勤務中は仕事に徹底的に集中し、勤務時間外は仕事のことを考えずに私生活を存分に楽しむといった形です。
日本ではお決まりの
「山田くん、今日、一杯いっとこうか」
「いやー、今日はちょっと...」
「そんなこと言わずさぁ、せっかく誘っているんだから」
「は、は、は、はい〜...」
なんて会話も基本的には存在しません。
またドイツ政府も仕事と私生活の分離を推奨しており、2013年には労働時間外に従業員に仕事に関連する連絡(電話やメール)をすることが禁止されることになりました。
フォルクスワーゲン、BMW、プーマなどの企業が時間外労働に対しての対策を始めたことをきっかけに、ドイツ政府も動き出したのです。
この一連の動きを歓迎したドイツの大手通信接続業者「スイスコム(Swisscom)」の前CEO、故カールステン・シュローター氏は生前、次のように語っています。
「仕事について永遠に考える。そんなサイクルに陥ることはとても危険なんだ。業務時間外も連絡を取るために携帯電話を見続けていると、心身の休息を取ることが全くできなくなってしまう」
実のところ、業務時間外に連絡を取る行為は日本でも禁止されています。しかし完全には徹底されておらず、あくまでも形式上の決まりになってしまっているのが日本の現状。実際に全ての企業が実行しているかと言えば、答えはNOなのです。
このように、仕事と私生活を比較的密接に捉える日本人に比べて、ドイツ人は仕事と私生活を完全に分離し、メリハリのある生活を送ります。そうすることで仕事中の生産性が見事に高まり、短い時間でより多くの結果を出すことに成功してきたのです。
▼直接的でムダのないコミュニケーション
ドイツのビジネス文化において好まれるのは、直接的なコミュニケーション。
上司とフランクに話したり、ミーティングでムダな前置きを省いたりすることもしばしばです。また言葉を和らげようとせず、必要なことを直接的に、そして正直に伝えあう文化が根付いています(knote.com)。
これに対して日本はどうでしょうか。自分の意見や主張が頭の中にあっても、オブラートに包んで間接的に伝えようとするのが理想とされることがあります。
これは文化的な美徳とも言えるかもしれませんが、これこそが日本企業の生産性を下げる一因となっていることも否定できません。
「部長、昨日のあの件なんですが...」
「どの件だね?それより一昨日の議事録はできたのか?」
「いや、ちょっと微妙なところです」
「ちょっと微妙とはどういうことだ。しっかり説明してくれ」
というような日本らしいコミュニケーションも、生産性を下げたり、意思決定を遅らせる一因となっている可能性があります。
▼日本では考えられない従業員の待遇
ドイツ人の高い生産性の秘密は、従業員に対する企業の優れた支援体制にも見られます。
以下は、ドイツと日本の年次有給休暇についてまとめた表です。
ドイツでは平均で1年に27.6日の年次有給休暇を与えられ、その9割以上が取得されています。反対に日本では平均でも16.6日の年次有給休暇しか与えられていないにも関わらず、その5割ほどしか取得されていないことがわかります。
また、ドイツには従業員を手厚く支援する制度がもう1つ。充実した育児休業制度です。
ドイツの育児休業制度下では、子供が3歳になるまで休暇の取得が可能となっており、その間は法律によって仕事が適正に守られています。
また、妊婦は出産6週間前から、そして産後8週間(場合によっては12週間)までの休業が認められており、その間も会社は給与を支払うことが法律によって決められています(thelocal.de)。
反対に、日本は基本的には子供が1歳(場合によっては1歳6ヶ月)になるまでしか育児休業を取得できないのが現状であり、従業員の仕事に対しての自由度が高いとは決して言えない状況にあります。
ドイツのように従業員を大切に扱うことは、会社全体の士気を向上させます。その結果、労働時間の短縮だけでなく、生産性の向上が可能となるのです。
自動車産業やスポーツ産業をはじめ、多くの大企業が存在するドイツ。そんなドイツを支えるのは、究極に効率的な職場環境でした。
効率的な職場環境は、より短い労働時間を実現しながらも、より生産的な活動を促進します。その結果、充実した私生活を送ることも可能となるのです。
日本が労働時間を短縮し、より生産的な社会を実現するために、ドイツから取り入れられる点は多くあるのではないでしょうか。
記事:イングリッシュつるの(Twitter)
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