今回のプロジェクトを実施したのは、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」をかかげるデザイン会社のGoodpatch(グッドパッチ)。
なぜ、町づくりの取り組みにデザイン会社が?と思われるかもしれません。
しかし、デザインとは、一般的にイメージされる色や形でつくられた装飾だけを指すのではなく、モノやサービスの設計までを含むのです。
そんなデザインのプロフェッショナル集団は、上川町でどんな新しい町づくりをデザインするのでしょうか。
デザインの重要性
本プロジェクトは大きく分けて3構成。
ひとつは上川町の若者たちを対象としたワークショップ。次に上川町住民へのインタビュー。そして最後は、グッドパッチによる新しい町づくりのための報告会です。
ワークショップを始める前に、そもそもデザインとは何なのか。そしてデザインの重要性について説明してくれました。
メイン講師を務めたのはグッドパッチの吉本さん。
冒頭でご説明した通り、デザインはモノやサービスの装飾部分だけではありません。どんなサービスなら使う人が喜ぶのか?といったコンセプト段階の設計から始まります。
そのため、デザインには様々な領域があり、多くの行程を経て完成されるものなのです。
誰のためのサービスか?で完成するものはまるで違う
サービスをつくる上で、ユーザー視点、人間中心視点、生活者視点のどれを選ぶかで、完成するものが違ってくるといいます。
ボーリングを例に説明してくれました。
まず、ユーザー視点でボーリングに関するサービスをつくろうとした場合、「ユーザー」つまりボーリングをやりたい人が喜ぶものにする必要があります。それならば初心者でも楽しめるようにガター無しのレーンを取り入れる。遊ぶとお得になるクーポン配布。これがひとつの正解になります。
一方で人間中心視点はどうかというと。ボーリングを純粋に楽しみたいのではなく、ボーリングで友達とワイワイ騒ぐことが一番の目的かもしれません。
それならば、ゲームセンターや他のアミューズメントも同時に楽しめる、複合型施設が正解といえます。
このように、誰をターゲットにしてボーリング場をデザインするか?によって完成するものが変わってくるのです。
モノをつくれば売れる時代は終わり、コトを売る時代
「モノをつくれば売れる時代は終わった」という言葉を聞いたことがあると思います。モノが溢れる今の時代、よほど革新的でない限り、既に人々の多くがそのモノを既に持ってしまっているのです。
スマホがいい例で、登場したばかりの頃は、店頭に長い行列ができるなど話題になりました。しかし、今は2年の契約更新のタイミングや、バッテリー寿命が来たときなど、購入サイクルが限られてしまっています。
そのため「今はコト(体験)を売る時代」なのです。
緑のロゴでお馴染みの、あのコーヒーチェーン店は、コーヒー屋として運営していません。
あえて商品提供まで時間をかける。ユーザーが快適に作業ができる空間を提供する。これらにより、コーヒー屋ではなく「サードプレイス(自宅でも職場でもない第三の場所)」を提供する店として運営しているのです。
つまりコーヒーをただ買いたいだけの人をメインの顧客には捉えておらず、コーヒーを楽しみながら友人との談笑や、作業を行える場所という、コトを販売しています。
このようにターゲットについて深く検討し、それに対するデザイン(設計)が、これからの時代重要になってくるそう。
実際、今を時めく有名チャットツールや人気SNSの会社は、共同経営者にデザイナーがいたりと、根柢の部分をしっかりと設計しているから伸びているのです。
上川町を支える若者たちがワークショップ
トップのやる気だけで、上川町をよりよい町へ進化させようとしても、形にはなりません。上川町で暮らすひとりひとりが共通のビジョンを持つ必要があるのです。
そして、そのビジョンを実現する手段としてデザインの力が必要になってきます。
そのために行われたのが、ワークショップ。
普段、役場で町の財政業務を行う者、観光にたずさわる者、保健師、デザイナーなど様々な若者たちが参加しました。
参加者は、皆が上川町で生まれ育ったわけではありません。町外や道外で育ち、数年前に上川町に初めてやってきたという人もいるのです。
上川町に来て日の浅い者が、長年この地で暮らしてきた住民と接すると、町としての習わしを知らなかったり、価値観の違いによるトラブルが発生してしまうかもしれません。
彼らが、デザインの行程を体験することによって、より住民の声に寄り添えるようにするというのも、今回のワークショップの目的のひとつ。
一方でグッドパッチも、最終的に報告するレポートのために、このワークショップを通して、彼らから上川町の情報を学びます。
東京と上川町、二拠点生活の課題
講義によって、デザインの重要性を理解した参加者に、ワークショップの課題が伝えられます。
テーマは、2拠点生活の課題。
今、リモートワークが普及したことで、都市部と地方部の2拠点で生活をする人が増えています。しかし、課題もあります。
今回は、実際に東京と上川町で二拠点生活を送る職員をモデルケースとし、実際にサービス設計の流れを体験していきます。
ワークショップの流れは下記のとおり。
- ヒアリングするためのペルソナシートを記入
- 質問をチームでまとめる
- チームごとにヒアリング
・行動の裏にある思考、価値観を引き出し潜在的な課題を見つける
・5W1Hを意識して具体的な経験を聞き出す
・内容が重複するような発言に注意する - インタビューで得られた情報から心の声(インサイト)を探る
- チームで話し、これだと思うインサイトを3つ出す
- インサイトを元にサービスのコンセプトを個人で10案出す
- チームでメンバーの内容をシェア
- もう一度個人で考え、他人の意見をブラッシュアップしてチーム内にシェア
- サービスを形にする
- サービスを伝えるチラシを制作する
- チームごとに発表
これだけの工数をかけるて、ターゲットが本当の意味で必要とするサービスをつくります。
相手の直接的な言動をそのまま捉えたり、こちら側の「○○に困っているんだろう」という独りよがりな想像では、決して生み出すことができなかったであろうアイディアを各チームが発表。
参加者からは、日々の業務でも、この考え方を意識して住民の方と接していきたい。という言葉が多数聞かれました。
上川町で暮らすさまざまな人を取材
ワークショップの翌日には、グッドパッチメンバーが上川町のいい所、抱えている課題を住人の元を直接訪問してインタビュー。
上川町でトウモロコシや大豆など農家を営む辰巳さん。
昨年オープンした交流スペース&コワーキングスペース「PORTO(ポルト)」で、数年前に上川町に移住してきた絹張さんへインタビュー。
体験型交流施設「大雪かみかわ ヌクモ」をお子さんと利用していたお母さん。
昨年、上川町にホットドックショップをオープンさせた小山内ご夫婦。
上川町職員でありながら、町営体育館で利用者のボディメイクのアドバイスもする塚田さん。
特定の企業や団体ではなく、幅広い方々から日々の暮らしや、最近の町の動向など、ざっくばらんにお話を伺うのです。
何気ない会話からインサイトを取得し、住民も気付いていない潜在的な上川町の魅力や課題を得ます。
そのインタビューや今回の上川町の取り組みは、NHK北海道(道北エリア)の番組でも報じられました。
上川町は近年、新しい施設や媒体が次々と誕生。移住してきた若者たちがメインとなって様々な取り組みを始めています。それらを今、全国に向けて発信しはじめました。
本記事もその一環であり、これまでクレイジーとして上川町の魅力を伝えてきました。今回のプロジェクトを通して、グッドパッチはどんな報告をしてくれるのでしょうか。
豊かな自然もいいけど、やはり魅力は人。
二日間の取り組みを終え、後日グッドパッチによる報告会がオンラインにて行われました。
改めて、今回のプロジェクトは、上川町がグッドパッチと一緒に、今注目される「デザイン思考」や「UX(ユーザー体験)」を取り入れたワークショップやリサーチを用いて、地域創生と移住促進の推進と継続をするために「上川町ならでは」の独自施策の開発・運用を目指す取り組みです。
グッドパッチの報告から一部を抜粋してご紹介します。
現地での取材を通して、上川町の一番の魅力は「人」。
外から来た人間を警戒することなく、そして営業的な押し付けがましさもないといいます。
上川町は、数年前から地域おこし協力隊や地域活性化起業人という制度で、他地域からの移住に力を入れていた町です。また、地域包括連携協定というかたちで、企業の誘致も積極的に行っていています。
そんな取り組みの積み重ねを地道にしてきた町だからこそ、人を受け入れる雰囲気で溢れているのではないでしょうか。
それは、外から来た人間に限らず、世代間にも当てはまるといいます。
自然豊かな場所で子どもをのびのび育てたい。そう思う親御さんはたくさんいることでしょう。しかし、自然だけが豊かでも、人の心は育ちません。
親でも先生でもない第三者が、この町では子どもの友人のような存在でいてくれるのです。
上川町にある大雪山連峰の山々が広がる光景に、初めてこの町に来た人はきっと息を飲むはず。
そんな場所で時間を過ごすと、人に自分がどう見えているのか。よく見せるために着飾らないといけない。そんな想いは自然に無くなっていきます。
おだやかな風景に同調するように人も心もおだやかになる。そんな場所なのです。
上川町には、豊かな自然や層雲峡という観光地など観光資源が豊富にあります。それ自体も大変すばらしいものですが、そこで暮らす人々が一番の魅力とグッドパッチはいいます。
すぐに友達ができる町、友達に会いに訪問したくなる町。それが上川町。
それを今後どのような形で町づくりに取り入れていくのでしょうか。これからも上川町に注目です。
スポンサーリンク
スポンサーリンク