世界中の名匠を魅了し、時に振り回してきたともいえる子役たちの、画面からあふれてくる躍動感が胸を打つ名作10選をご案内します。
目次
刑事ジョン・ブック 目撃者【1985年】
あらすじ
昔ながらの禁欲的な戒律を守る集落アーミッシュ(ペンシルベニア州)に暮らす、レイチェル(ケリー・マクギリス)は夫を亡くし、幼い息子サミュエル(ルーカス・ハース)と暮らしていました。久しぶりに都会バルチモアへ旅行中、サミュエルが駅のトイレへ入ると…後から入って来た男たちによる醜悪な殺人が起こり、その一部始終を目撃してしまいます。
担当刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)は、事情聴取のため母子を警察へ連行します。疑惑のある男たちの面通しを行ないますが、犯人はこの中にいないと言うサミュエル。しかし署内に貼ってあった麻薬課マクフィー刑事の写真を見たサミュエルは、彼が犯人グループの中に居たとジョンに告げるのでした。
見どころ
美しい風景描写と、それを打ち破るサスペンス、同時進行してゆく禁断の愛など見どころ満載の本作。少年の無垢な瞳が"凶悪事件"を目撃してしまうシーンは、鍵となる鮮烈な場面です。またハリソン・フォードのキャリアの中でも代表作の1つに数えられる作品としても必見。アーミッシュで前時代的な生活を慎ましく続ける人々と、右肩上がりのギラギラした80年代アメリカの対比が見事、現代社会に疑問を投げかける隠れた名作です。
グロリア【1981年】
あらすじ
ニューヨークのダウンタウンのアパートに住まうジャック一家は、会計士の父が雇い主のマフィアを裏切ってしまい今まさに報復にやって来るのでは…と一触即発の状態です。そして隣人のグロリア(ジーナ・ローランズ)に、6歳の息子フィル(ジョン・アダムス)を預け部屋でかくまって欲しいと懇願します。その後、凄まじい銃撃の音が響き騒然とするアパート。そこから子ども嫌いのグロリアとフィルの逃避行の旅が始まるのでした。
見どころ
『レオン(1995年)』に多大な影響を与え、その原型となったとも評される名作。レオンにおける殺し屋=中年女性(グロリア)、少女マチルダ=移民の貧しい少年フィル、という図式となっている本作。フィル役ジョン・アダムスの演技と思わせない存在が光っています。グロリアと逃避行を重ねる中で恋愛にも似た感情を覚え、ある時は母と子、ある時は相棒など変化してゆく2人の関係性がビビットです。
実生活でジョン・カサベテス監督の妻であった女優ジーナ・ローランズが、ビッチ感にじむワイルドな中年女性を好演、男前なアクションシーンが格別です。痛快なのに涙腺を刺激する作品です。
タクシードライバー【1976年】
あらすじ
ベトナム戦争からの帰還兵トラヴィス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)は、戦争後遺症のためか不眠症に悩まされていました。その後ニューヨークのタクシー会社に就職。そんな彼はダウンタウンで見掛ける人々を、欲にまみれた薄汚い者として蔑すむようになります。
そんな折、自身のタクシーに逃げ込んで来た少女アイリス(ジョディ・フォスター)をヒモ男スポート(ハーヴェイ・カイテル)が追いかけ、連れ帰る一件を目の当たりにします。それが刺激となり、少女を助ける野望に燃えるトラヴィス。猛烈な肉体訓練と拳銃を手に入れ全能感にひたるのですが…。
見どころ
ロバート・デ・ニーロのアンチヒーローぶりが大人気の本作ですが、実は名子役の演技も光っています。演技派女優ジョディ・フォスターは13歳で本作に出演し、一躍脚光を浴びる存在となりました。売春の元締めである恋人スポートと暮らす未成年の娼婦というどう考えても難しい役柄を、こんな子がいるのかもしれない…と思わせる肝の座った佇まいで演じ切っています。
公開から40周年の節目であった2016年、監督のマーティン・スコセッシと主要キャストが再会するという企画がなされ、現在でも映画ファンを熱狂させている不朽の名作です。
ポルターガイスト【1982年】
あらすじ
新興住宅地に新居をかまえたフリーリング一家。次女キャロル・アン(ヘザー・オルーク)が、夜中、番組が終了したTVに向かって会話するようになり家族は心配を募らせます。ある晩、例の奇行をみせるキャロル・アンの前にTV画面から魂のような物が出現し、家そのものを揺らす現象が起こります。
日常的に怪奇現象が多発するようになって不安な日々を送る中、ある嵐の夜、とうとうキャロル・アンがその姿を消すのでした。両親はキャロル・アンを救出するため、ベテラン霊媒師タンジーナ(ゼルダ・ルビンスタイン)の力を借りる事にします。
見どころ
撮影後にキャストが怪死した等のエピソードが先行しがちな本作ですが、経済優先の現代へ鋭い疑問を投げかける、トビー・フーパー監督×スティーブン・スピルバーグ制作・脚本の大ヒット作です。
『ジョーズ(1975年)』など、初期のスピルバーグが繰り返し用いた"現代への問題提起"をポルターガイストという異形の物を媒介とすることで、エンターテイメント性を損なわずに描ききっています。この世とあの世の狭間で、はからずも巫女的な立場におかれてしまう少女キャロル・アンの存在は大変重要。幼児の持つ無垢さと妙な勘の良さを余すことなく引き出しています。
グーニーズ【1985年】
あらすじ
海辺の街に暮らす少年マイキー(ショーン・アスティン)は家でたむろしている「グーニズ」の仲間たちと、自宅の屋根裏で伝説の海賊"片目のジャック"の宝の地図を見つけます。興奮したグーニーズたちは、地図の示す場所が近くの浜辺だと知り大急ぎで家を飛び出します。
マイキーの自宅は、宅地開発業者によって立ち退きを命じられており、その期日は明日まで!それまでに親たちの借金を業者に返さねばならず、なんとか大金を得たいと思っているのです。宝の隠し場所は使われていない浜辺のレストラン。しかし、そこは凶悪犯フラッテリー一家がアジトとして今まさに使っている場所でもありました…。
見どころ
"子どもたちの存在感"と"宝を探したい切実感"が丁寧に描かれている良作です。子ども時代のハチャメチャな感性と冒険への憧れは、自身の子ども時代をつい投影してしまう普遍性を持っています。本作でデータ役を演じたキー・ホイ・クァンは『インディ・ジョーンズ/魔球の伝説(1984年)』に、マウス役のコリー・フェルドマンは『スタンド・バイ・ミー(1987年)』に出演するなど、少年スターを生み出した事でも知られています。
スタンド・バイ・ミー【1987年】
あらすじ
片田舎で暮らした少年ゴードン(ウィル・ウィートン)は、友人から「森の奥に、列車にはねられた死体がある」と聞きつけます。死体を見つけると有名になり、ヒーローになれる!そう考えたゴードンは友人のクリス(リバー・フェニックス)、テディ(コリー・フェルドマン)、バーン(ジェリー・オコンネル)たちと死体探しの旅に出かける事にします。
普段は大人たちから理解されず息苦しい思いをしている4人の悪童たちは、森で危ない目に遭いながら胸に閉まっていた思いを打ち明け、いままで以上に心を通わせて行く事になるのですが…。
見どころ
ある夏の少年たちの心の交流を描き、ベン・E・キングのテーマ曲とともに大ヒットしたスティーブン・キング原作の名作。故リバー・フェニックスを人気スターへと押げた作品でもあり、『グーニーズ』に出演したコリー・フェルドマンも親から虐待をうけている少年テディを演じ、高い評価を得ています。
大きな出来事が起こるようで起こらないというストーリーと主要キャストは子どもたちという題材ですが、誰もが通るであろう子ども時代の"良き日々とその別れ"が共感を呼び、色褪せない魅力を放っています。
大人は判ってくれない【1960年】
あらすじ
12歳の少年、アントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオー)は、学校でいつも叱られ家庭では両親の不仲や母からの冷遇など、落ち着ける場所のない日々を送っています。嫌気がさして友人と学校をさぼるなどし、ますます問題児扱いされていくアントワーヌ。
居づらくなった家庭を後にし、金持ちの同級生の家にこっそり居候するなどして食いつなぎます。しかし金に困ったため、とうとう警察沙汰の窃盗を起こしてしまい、その所在が両親へ知らされる事となるのでした。
見どころ
それまでの大手撮影所で技術者を結集して作る映画から脱却し、街へカメラを持って規正の映画製作ルールを超えた作品をつくろうとした、フランスのムーブメントであるヌーベルバーグ。その幕開けとして脚光をあびたのが本作です。パリのリアルな街並が描写されていく、フランソワ・トリュフォー監督の自伝的作品であり長編デビュー作です。
タイトルが示す通り、家庭でも学校でも居場所が見つからない少年の孤独を、ジャン=ピエール・レオがひりひりする存在感で体現しています。ジャン=ピエール・レオーはその後も、本作の主人公の成長を描いた『アントワーヌ・ドワネルの冒険』シリーズに出演、現在でもフランスを代表する俳優の1人として活躍しています。
お早よう【1959年】
あらすじ
長屋が何棟も立ち並ぶ集合住宅地に暮らす林家。表面上は仲良さげに暮らす大人たちですが、内心は近所付き合いに少々うんざりしています。林家の子どもたち、実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)は、出したい時におならを出す事が目下のブーム。軽石を削って飲むとおならが出やすくなると聞き、毎日こっそり実行しては学校に通っています。
ある日、テレビを持っている近所の家にいりびたっている事を大人たちにとがめられた2人は「テレビを買ってくれないのがいけないんだ!」と抗議。いっさい喋らず、ご飯も食べない!と決めるのですが…。
見どころ
団地暮らしが便利だともてはやされた時代の、ある核家族の日常を描いた小品です。小津安二郎監督の作品の中でもユーモラスで子気味良いため、隠れた人気作となっています。本作出演の佐田啓二は大スターであり中井貴一の実父である事でも知られています。
小学生と中学生の兄弟が日夜おならを自在に操るために奮闘するという、コミカルな日常生活が描写されていきます。騒ぎすぎて叱られた時に言ってのける「大人だって…今日は天気がいいですね?とか、くだらない無駄口ばっかり言ってるじゃないか!」が、実は本作の重要なテーマ。なぜかラストで胸が熱くなる名匠の手腕が冴えた作品です。
ネバーエンディング・ストーリー【1985年】
あらすじ
母を亡くし父と暮らす少年バスチアン(バレット・オリバー)は、同級生にいじめられています。ある古書店に飛び込んで彼らから逃れますが、店内で『ネバーエンディング・ストーリー』という古い本を目にします。店主は「その本は危険だ…」と読むのをやめるよう諭しますが、本に惹かれたバスチアンはそっと借りる事にし、その物語に引き込まれて行きます。
それは崩壊寸前のファンタージェンという世界の物語で、少年の勇者アトレイユ(ノア・ハザウェイ)が、その崩壊を食い止めようと戦う冒険物語でした。感情移入して読み進むうちに、他の本とは何かが違う…と徐々に気づきはじめるバスチアンでした。
見どころ
幻想的な造形や人気キャラクター"ファルコン"の可愛らしさもあり、大ヒットを記録した本作。児童文学の名作「はてしない物語」の映像化に成功した、ファンタジックな世界観が秀逸。主人公バスチアンの住む世界と本の世界が次第にリンクしていく様がスリリングです。女王の幼なごごろの君を演じたタミー・ストロナッハの美しさは必見。絵本の中から抜け出たような可憐な姿は"信じる事の尊さ"をまさに体現しています。
小さな恋のメロディ【1971年】
あらすじ
保守的で規律の厳しい学校に通う11歳のダニエル(マーク・レスター)は、不良少年として扱われているオーンショー(ジャック・ワイルド)と意気投合して関係を深めています。そして家庭で窮屈な思いをしている2人は親友として過ごすように。
そんな折、学校で見かけた少女メロディ(トレイシー・ハイド)にすっかり心を奪われたダニエル。その気持ちがメロディに届き、心を通い合わせる事となった2人は学校をさぼってデートに出かけてしまいます。すぐにでも結婚したい!と気持ちを確認しあったのですが、学校では大騒ぎになっていまい…。
見どころ
初恋をイメージする時に忘れてはならない珠玉の名作で、日本でも大ヒットとなりました。ビージーズが本作へ提供した「メロディ・フェア」など数々の名曲と共に甘酸っぱさが広がります。誰もが想起する永遠の美少女像を、生々しさをともなったトレイシー・ハイドが可憐に体現しています。
酒もタバコもデビュー済みの不良少年役のジャック・ワイルドですが、この当時は17歳。小柄なため起用されたそうです。演技力を求められる役柄だっただけに納得ですが…その点も、見どころのひとつとなっています。
最後に
大人や社会を鋭く見つめる瞳を持った子役たちが出演している名作を紹介しました。前述の『グーニーズ』のメイキングの中では、子どもたちに段取りや演技指導をつける事の苦労話なども飛び出し、撮影に時間がかかった等のエピソードが沢山出てきます。
撮影現場での大人たちの苦労は計り知れませんが、引き換えに演技を超えた素晴らしい瞬間がおさめられています。「子役」に感情移入するも良し、「大人目線」でその危なっかしさを見守るも良し、今回の10選で"あの頃"を少し思い出しながら、存分にお愉しみください。
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