自宅の最寄り駅に着いた瞬間、大勢の人が下車した。速足でわき目も振らず、帰りを急ぐ人々。例えば彼らの中の一人を捕まえて、どうして早く帰宅したいのか尋ねたら、どんな答えが返ってくるだろう?そうして流れる人混みに目をやっている内に、自分にも僅かながら、足を急がせる理由があったことを思い出した。自宅に届いた実家からの段ボール便を、忙しくて昨日からまだ開けていない。もし中身が食料品なのであれば、痛まない内に早いところ整理しなければならない。いつものように、人生のうちの1日を終わらせる小さな覚悟を決めて、歩き出した。
帰宅して楽な格好に着替えたあと、昨日の夜に受け取ったまま玄関先に置いてあった荷物を切り開く。そうして少しの間、硬直した。
まず目に飛び込んできたのはタッパーの裏。それから、むせ返りそうになる有機的な臭いが鼻腔を直撃した。洗剤などの日用品がひしめいて底が見えなくなっている段ボールの中で、固定されていなかったらしいタッパーが暴れまわり、中身を炸裂させている。汁気を帯びた人参やジャガイモなど、ゴロゴロした具材が無造作にぶちまけられている光景はちょっと現実を忘れさせる威力があった。詰め込むときに隙間ができていたことと、ここに運ばれてくるまでに荷物が揺れたことによる不運な事故だ。
それは、今日乗り込んだ車両に吐しゃされていたあの光景を、どうしても連想させた。
段ボールの中身を慎重に片づけつつ検分すると、タッパー以外は無事だった。こちらから送ってくれと頼んでいるわけではないが、母親が気まぐれなタイミングで差し入れてくれる日用品や缶詰などの支援はありがたい。昨日の段階で届いていたが、荷物を受け取った報告をまだ入れていなかった。
時刻を確認すると、深夜1時。少し迷ってから、携帯を手に取った。
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