マカロニ・ウェスタンの若きヒーローに始まり、1970~80年代を代表するアクション・スター。そして35作品超を手掛け、2度のアカデミー監督賞受賞に輝いた名監督という、様々な顔を持つ稀代の映画人です。
ここでは、そんなクリント・イーストウッドを象徴する傑作の数々をご紹介致します!
目次
荒野の用心棒【1965年】
あらすじ
辺り一帯を二分する悪の勢力に牛耳られている寂れた町に、ある日ふらりと現れた腕利きのガンマン(クリント・イーストウッド)。一計を講じたガンマンは酒場のマスター(ホセ・カルヴォ)と共に、それぞれの組織を渡り歩いてペテンに掛け、お互いに潰し合いさせるように仕向けます。しかし感づいた組織に捕えられてしまい、絶体絶命の危機に陥ってしまうのです…。
見どころ
西部劇のTVシリーズ『ローハイド』の主演で念願のブレイクを果たした後、イタリアのセルジオ・レオーネ監督からの本作オファーを快諾し、一路イタリアへと渡って撮り上げたクリント・イーストウッドの出世作。イタリアでも大ヒットした黒澤明監督作『用心棒(1961年)』をベースに、西部劇へと大胆にアレンジしたマカロニ・ウェスタン(イタリア製西部劇)です。エンニオ・モリコーネ作曲による、口笛メインのテーマ曲に乗せて「寡黙なダーティ・ヒーロー」という現在に繋がる俳優イメージを決定付けた傑作です。
ダーティハリー【1972年】
あらすじ
現代のサンフランシスコ。「さそり」と名乗る狂気の無差別連続殺人犯(アンディ・ロビンソン)を追う、一匹狼ハリー・キャラハン刑事(クリント・イーストウッド)。執念の捜査で一度は身柄拘束に成功するも、その行き過ぎた暴力的な尋問を咎められ、証拠不十分で釈放されてしまいます。ハリーを恨む「さそり」は、最悪最凶の手段でハリーをおびき出し、やがて対決の時がやってきます。
見どころ
現代劇『マンハッタン無宿(1969年)』にて初タッグを組んだ盟友ドン・シーゲルと共に作り上げた、極上のクライム・アクション。超法規的捜査で犯罪者を追い詰める一匹狼「ハリー・キャラハン刑事」というキャラクターは彼の代名詞となり、『ダーティハリー5(1988年)』まで計5作が製作された超人気シリーズとなりました。
超大型拳銃「S&W M29=44マグナム」をぶっ放して、強引に事件を解決させるケレン味は、その後勃発した刑事アクション映画ブームの礎にもなっています。
荒野のストレンジャー【1973年】
あらすじ
ある日突然、田舎町に現れた流れ者のガンマン(クリント・イーストウッド)。彼は町に巣食うチンピラたちを一掃した挙句、用心棒として居座り、さらなる無法者の襲撃に備えて町民を訓練していました。そしてついにその日を迎えますが、その時初めてガンマンの衝撃の過去と正体が明らかになります。
見どころ
『恐怖のメロディ(1972年)』にて41歳にして念願の監督デビューを飾ったイーストウッドは、以降俳優かつ監督という2つの顔で数々の名作を生み出すことになります。監督第2作として、西部劇という得意ジャンルを選択した彼は、これまで自身が演じてきたガンマンとは似て非なるキャラクター設定と、謎めいたストーリーを持つ本作を放ち、その鬼才ぶりを見せつけました。このストーリー設定は、そのまま後年の『ペイルライダー(1985年)』に引き継がれています。
ガントレット【1977年】
あらすじ
万年酒浸りの冴えない刑事ショックリー(クリント・イーストウッド)。彼は娼婦マリー(ソンドラ・ロック)を、ラスベガスからフェニックスへと送り届ける護衛任務を命じられます。反発し合いながらも渋々道中を共にする2人でしたが、やがて謎の追っ手により執拗に命を狙われ始めます。
見どころ
すでに『ダーティハリー3(1976年)』までの三部作において、ハリウッドを代表するアクション・ヒーローとしてのポジションを確立していたイーストウッド。その勢いを全て注ぎ込んだ感のある、痛快なポリス・アクション超大作がこの『ガントレット』です。当時愛人だったソンドラ・ロックを相棒に据え、実生活さながらのロマンス描写も適度に配置していますが、圧巻なのはクライマックスの、警官隊の一斉射撃の中を武装バスで突入するシーン。原題の「THE GAUNTLET」(両側からの棒打ち拷問刑)の由来となった、ビル街を無数の銃弾が飛び交う様は唯一無二のド迫力です!
センチメンタル・アドベンチャー【1983年】
あらすじ
1930年代初頭の世界大恐慌時代。1人の落ちぶれたカントリー歌手レッド(クリント・イーストウッド)が一花咲かせようと、自分を慕う甥っ子ホイット(カイル・イーストウッド)と共にナッシュビル開催の一大オーディションに参加すべく旅に出ます。しかし、レッドの身体は長年の無理とアルコールに蝕まれていました…。
見どころ
1980年代に入り、『ダーティファイター』シリーズや、『アルカトラズからの脱出(1979年)』など、依然アクション・ムービー主体の活躍を続けていたイーストウッド。実子のカイル・イーストウッドと親子共演を果たした本作は、アルコール中毒のカントリー歌手と甥っ子の旅路を描いた淡いロード・ムービーです。派手なアクション・シーンも無く、題材も物語も地味この上ない作品ですが、後年に続く"イーストウッド節"とも言える、現実的かつ哀愁たっぷりの展開と美しい映像で構成されており、必見の佳品といえます。
ペイルライダー【1985年】
あらすじ
冷酷かつ残虐な鉱山主の独裁下に置かれた名も無き町に、ある日牧師姿の男(クリント・イーストウッド)がふらりと現れ、独裁に抵抗する一家の助けとなって戦いを繰り広げます。そして、悪徳保安官と鉱山主との最後の対決へと突入する男の真の目的とは…?
見どころ
『アウトロー(1976年)』以来、約10年振りに手掛けた本格西部劇。折しも、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンなど、新世代アクション俳優がハリウッドを牽引し始めたこの時期に、既に忘れ去られたジャンルだった西部劇を自らの手で復活させました。『荒野のストレンジャー(1973年)』のリメイクとも言える"正体不明の名も無き男の物語"であり、全編カラッカラに乾き切り、極力無駄を排した作風は逆に斬新で、1985年カンヌ国際映画祭にてパルム・ドールにノミネートされたことも、当時大きな話題となりました。
許されざる者【1993年】
あらすじ
かつて悪行の限りを尽くした伝説の元アウトローの農夫マニー(クリント・イーストウッド)が、子どもたちを養うために賞金稼ぎとして最後の汚れ仕事を決意。お尋ね者を追い詰める中、輪をかけて悪辣な保安官リトル・ビル(ジーン・ハックマン)一味との戦いに身を投じます。
見どころ
すでに還暦を越えたイーストウッドが放った渾身の一作は、師と仰ぐドン・シーゲル監督とセルジオ・レオーネ監督に捧げられた"最後の西部劇"でした。その見事な演出力と、自身のキャリアを投影したかのような哀愁溢れる物語は、喝采の嵐で迎えられアカデミー賞にて実に9部門にノミネート。作品賞・監督賞・助演男優賞(ジーン・ハックマン)・編集賞の4部門受賞というという、オスカー初ノミネートにして見事な快挙を成し遂げました。相棒役のモーガン・フリーマン、賞金稼ぎ役のリチャード・ハリスら名優たちとの、火花散る演技合戦も出色の出来です。
ミリオンダラー・ベイビー【2005年】
あらすじ
ロサンゼルスの下町を舞台に、惨めな貧困人生から抜け出すべくプロボクサーチャンピオンを目指す30代女性のマギー(ヒラリー・スワンク)と、彼女を鍛える頑固一徹な老トレーナー、フランキー(クリント・イーストウッド)。2人はお互いの心の傷と負い目を埋めるべく、懸命にトレーニングし見事な連戦連勝を重ねます。しかし、運命の時は突然訪れるのでした…。
見どころ
『許されざる者(1993年)』以降、文字通りハリウッドの重鎮として、数々の傑作を監督・主演してきたイーストウッド。21世紀に入り、齢70を越えてなお精力的に作品を発表し続ける彼の作品の中でも、本作は極めて現実的で辛辣なテーマとストーリーで構成されています。その結果公開当時物議を醸したほどの衝撃的なラスト・シークエンスと共に、永遠に脳裏に焼き付く傑作となりました。アカデミー賞7部門にノミネートされ、作品賞・主演女優賞(ヒラリー・スワンク)、助演男優賞(モーガン・フリーマン)、監督賞の4部門を受賞。前年の『ミスティック・リバー(2004年)』に引き続き、2年連続でオスカー受賞を果たしています。イーストウッド自身が手掛けた、心に沁みるスコアも見事です。
グラン・トリノ【2009年】
あらすじ
愛する妻を亡くしてからというもの、息子家族や隣人、牧師に至るまで悪態をついて追い払い、ひとりぼっちの余生を送る老人コワルスキー(クリント・イーストウッド)。彼の宝物はと言えば、小さな我が家と狭い庭、愛犬デイジー、そして長年丹精をこめ続けている愛車の1972年製フォード・グラン・トリノ。ある日、たまたま隣家の中国系移民家族の少年タオ(ビー・ヴァン)をギャング一味から助けたことがきっかけで交流が始まり、彼の人生観は少しずつ変化。やがて彼は少年のため、ある究極の選択を実行に移します。
見どころ
これまで自らが演じたヒーロー像がそのまま老いたような、頑固で、馴れ合い嫌いで、すぐに悪態をつき、何かあれば躊躇なく銃をぶっ放す孤独な老人を演じ、世界中から大絶賛を浴びた感涙必至の名作。本作を以って俳優を引退し、今後は監督業に徹すると宣言したイーストウッドがかつて演じた名キャラクターたちは、本作によって見事に昇華されました。
アメリカン・スナイパー【2015年】
あらすじ
2003年のイラク戦争開戦以来、実に160人以上の敵を射殺し"ラマディーの悪魔"と恐れられた伝説の狙撃手クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。大切な家族を想う気持ちと、戦場に半ば魅せられたように従軍を繰り返す病んだ心身との間で葛藤するクリスは、ようやく家族と共に平穏に暮らすことを決意。英雄として帰国したクリスでしたが、彼を待っていたのはあまりにも残酷な運命でした。
見どころ
近年では『チェンジリング(2009年)』、『ジャージー・ボーイズ(2014年)』、『ハドソン川の奇跡(2016年)』など、実話を基にしたドラマ演出の第一人者となった感のあるイーストウッド。その中でも、全編に漂う緊張感、徹底したリアリズム、そして彼の作品に共通している"突き放したような客観的視点"による効果が際立った本作は、近年の最高傑作という呼び声も高い傑作に仕上がっています。アカデミー作品賞他6部門にノミネートされ、戦場のスリリングな描写を後押しした迫力の音作りにて、見事に音響編集賞を受賞しました。主人公の姿を、息を呑む狙撃シーンの数々と共にあくまでもドライに描写しており、誰の心の傷も癒えないまま終盤を迎える展開で、観る者に深い余韻を与えてくれます。
最後に
87歳を迎えたクリント・イーストウッドの、輝かしい映画キャリアのほんの一部をご紹介致しましたが、いかがでしたか?
次回作として、2015年にフランス行き特急列車内で企てられた大規模テロを寸前で阻止した米軍人ら3人の物語を、本人たちを主演に据えて映画化するという超意欲作『The 15:17 to Paris(原題)』が控えています。これからもまだまだ傑作の数々を送り出してほしいものですね。
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