『十二人の怒れる男』作品紹介
あらすじ
ニューヨークの裁判所。そこに集められた12人の陪審員が審議するのは、父親を刺殺したとして第1級殺人罪に問われているスラム街の少年。疑うべきところはないように思えたこの事件に、11人の陪審員は有罪投票。しかしただ1人、建築家の陪審員8番(故ヘンリー・フォンダ)が意義を唱えます。有罪となれば死刑となってしまう少年のために、陪審員8番はもっと考えたいと他の陪審員に訴えるのでした。残りの陪審員も、彼の理路整然とした語りによって心が揺らいでいきます。
見どころ
12人の陪審員による審議の様子を描いた密室劇。シドニー・ルメットが監督を務め、レジナルド・ローズ脚本のテレビドラマを映画化。1票の重さを理解できずに参加する者がいたり、たった1人の意見によって今までの議論が一転したりと陪審制度の長所や短所についてうまく描かれています。また、密室で事件の真相を追求しながら進む緊張感の中で、12人それぞれの人間性も見事に表現されています。
『十二人の怒れる男』徹底解説
少しの勇気と誠実さで状況は一転
見ず知らずの他人と殺人事件を裁くという重圧のある空気感の中、公平な視点を持って勇気のある行動をした陪審員8番。彼は、自分以外が有罪を主張する"反論しにくい"雰囲気の中で、ただ1人無罪に投票します。被告の少年がスラム街に住んでいることが判断に大きく影響していたのではないかと考えた陪審員8番は、「偏見はいつも真実に影を曇らせるものだ」と有罪を簡単に決めてしまうことを拒み、感情ではなく論理的に検証していこうとしました。
このように、「たった一言の勇気」によって多くの人間の気持ちや人生が変化することから、同作は「法廷もの」としてだけではなく「人間ドラマ」として評価されています。
陪審員8番を演じた俳優、故ヘンリー・フォンダ
ヘンリー・フォンダは、『怒りの葡萄(1963年)』、『荒野の決闘(1947年)』などで知られ、当時アメリカでは映画俳優として不動の地位を築いていました。ハンサムで生真面目なイメージがあるヘンリー・フォンダが陪審員8番役を演じたことによって、陪審員8番の「ヒーロー性」をより印象づけたと言っても過言ではありません。実際に陪審員8番は、2003年にAFI(アメリカ映画協会)が選んだ「アメリカ映画100年のヒーローベスト100」で28位にランクインしています。
それぞれの個性が物語を広げる
陪審員8番の言葉をきっかけに始まった議論が進むにつれ、他11人それぞれの人間性や抱える背景が見えてくるようになります。映画の終わりまで名前がなく番号で呼ばれる彼らの人生が、96分間の陪審員室の中で明らかになっていき、さらには単純かと思われた事件の印象も変わっていきます。
アメリカの陪審員制度と民主主義
作中には、陪審員の1人が「陪審員制度がいかに優れた制度か」を語るシーンがあり、アメリカの陪審員制度や民主主義を肯定するメッセージ性のある作品となっています。実際に、圧倒的不利な「11対1」という状況を変えるのは"市民の声"でした。さらに、差別や偏見の問題が今よりも一層深刻だった中で、移民やスラム出身者の立場を描いているところは、アメリカの社会問題を取り上げた作品だと言えます。
世界中で作り続けられるリメイクやパロディ
12人の優しい日本人【1991年】
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脚本家・三谷幸喜によって作られたオマージュ作品『12人の優しい日本人』は、舞台化・映画化されました。当時、陪審員制度がなかった日本で、「日本人の気質では陪審員制度は成り立たない」ということを前提としたパロディ満載の作品となっています。「密室劇」、「二転三転する会話劇」、「個性豊かな登場人物」という、三谷作品との共通点をうまく笑いに変えた傑作です。
12人の怒れる男【2008年
出典:amazon.co.jp
ロシア人監督ニキータ・ミハルコフによって、現代ロシアを舞台にリメイクした作品。裁かれる少年を、チェチェン紛争の孤児という設定にするなど、現代ロシアが抱える社会問題を大きく取り上げています。このように、リメイクとしてアメリカ以外の国を舞台にする作品も多々あり、その国独自の文化や思想を浮き彫りにしながら新たな魅力を生み出しています。
最後に
アメリカのCBS放送で1954年にテレビドラマとし放送され、作者のレジナルド・ローズが殺人事件の陪審員を務めた経験から書きあげた『十二人の怒れる男』。テレビドラマとしては、プライムタイム・エミー賞で3冠に輝き、映画も第7回ベルリン国際映画祭金熊賞と国際カトリック映画事務局賞を受賞しました。世界各国で愛され続ける名作『十二人の怒れる男』をぜひご堪能ください。
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