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「笑いを狙ったシーンは1カットもない」『火花』の板尾創路監督 独占インタビュー

『火花』作品概要

映画『火花』が11月23日(木・祝)に公開となります。同作は、漫才の世界でくすぶっている芸人徳永が天才肌の先輩芸人の神谷に出会い、才能に憧れ、現実に立ち向かった10年間の軌跡を描いた青春物語です。原作者は人気お笑いコンビ「ピース」として活動しており、この作品で【第153回芥川賞】を受賞した又吉直樹さん。芸人史上初となる快挙は全国的に話題となり、単行本・文庫の累計発行部数は326万部を突破しています。2016年6月からNetflixでドラマ化され、同ドラマはNHKでも連続ドラマとして放送されるなど、映像作品としても注目を集めていました。

『火花』メインカット
©2017「火花」製作委員会

あらすじ

芸人コンビ「スパークス」としてデビューするも、まったく芽が出ない徳永は、営業先で先輩芸人・神谷と出会う。「あほんだら」というコンビで枠にはまらない漫才を披露した神谷に惹かれ、徳永は「弟子にしてください」と申し出る。神谷はそれを了承し、その代わり「俺の伝記を作って欲しい」と頼む。2年後、徳永は、拠点を大阪から東京に移した神谷と再会。2人は毎日のように飲みに出かけ、芸の議論を交わし、仕事はほぼないが才能を磨き合う充実した日々を送るように。そして、そんな2人を、神谷の同棲相手・真樹は優しく見守っていた。

しかし、いつしか2人の間にわずかな意識の違いが生まれ始める―
「笑い」に魅せられ、「現実」に阻まれ、「才能」に葛藤しながら、「夢」に向かって全力で生きる2人の10年の青春物語。



『火花』板尾創路監督インタビュー

ビッグタイトルの映画化にあたって今回、徳永役に菅田将暉さん、神谷役に桐谷健太さん、神谷の同棲相手・真樹役には木村文乃さんなど、豪華キャストが集結。そして監督を務めるのは、『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで』(日本テレビ)など数々の人気バラエティ番組に出演し、俳優、監督としても高い評価を得ている芸人・板尾創路さん。近年、監督業としては『板尾創路の脱獄王(2010年)』や『月光ノ仮面(2011年)』などを手掛けています。今回は映画『火花』について独占インタビューして参りました!

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演出への熱量が凄い!『火花』を映画に落とし込むということ

BUZZK5
映画『火花』、楽しく拝見させていただきました。今回、原作と異なる部分も見受けられましたが、板尾さん自身が原作とあえて違う形で見せていこうと意識した点はありますか?

ITO
神谷像っていうのは表現が難しくて、原作通りにやると2時間という映画の中では伝わらないなと思ったんで、神谷と徳永が出会う前のシーンに完全なオリジナルを入れたりもしました。

BUZZK5
冒頭でいきなり、驚かされるシーンがありますよね。原作では神谷の天才性っていう部分は、徳永の語りの中で表現されていましたが。

ITO
演技のみという条件で、神谷の魅力を桐谷くんに引き出して貰わないと、徳永が「弟子にして欲しい」って思うのが自然じゃなくなってしまいますから。時間との兼ね合いも含めて神谷は難しかったです。

サブ①
©2017「火花」製作委員会

BUZZK5
映画化の難しいところですね。原作と異なる表現をする上で、ここをこう変えたい、というお話を原作者の又吉さんとすることはありましたか?

ITO
又吉くんはほとんどノータッチです。小説を映画にするにあたって、キャスティングのことも含めて話はしましたけど、1時間くらいほぼ僕ひとりで喋って、「そこまで原作のことを考えてくれているのなら」と任せてくれました。

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BUZZK5
それだけ信頼されていたのですね!キャスティングという話が出ましたが、真樹を演じた木村文乃さんの髪色は板尾監督の方から金髪を希望したというお話をうかがいました。どういった理由でそういったリクエストを出したのですか?

ITO
俳優さんが役に入っていくためにスイッチが必要だと感じたんですよ。芸人の同棲相手という役柄も初めてでしょうし心情もつかみにくいでしょうから、金髪にするっていうのが彼女にとってやりやすいのかなと。自分も役者として出演することがあって、もっとこういう準備をしたい、と思うこともあるので。出来るだけ役者さんにとってはやりやすい環境を整えるべきだなと思いました。

サブ⑤
©2017「火花」製作委員会

BUZZK5
役者としての視野も持っている板尾さんだからこそ、キャストがより集中できるような提案をぶつけることができたのですね。演出に関しての熱量が伝わってきます。しかし、よく承諾を得られましたね。

ITO
CMなどでの清楚なイメージがある中で、初となる金髪を承諾してくださったので、そこは木村さんの意気込みを感じましたね。

BUZZK5
他のキャストさんに関しても、意気込みを感じるようなエピソードはありましたか?

ITO
桐谷健太さん、菅田将暉さんも、この映画にはどうしても参加したいという思いがあったみたいで。『火花』という話題性のある作品ですから、なかなかキャスティングの話を固めて決定を出すまで時間がかかったんですけど、他の仕事を止めてまで待っていてくれたっていうのはありがたかったです。

サブ⑥
©2017「火花」製作委員会

BUZZK5
キャストの皆さんにも、熱い思いがあったのですね。それだけの気持ちに応えるために、演技の指導はどういった形で入れましたか?

ITO
もともと、お芝居の演出は当然あるわけですけど、漫才師の演出をすべきかどうかで迷いがあったんです。期間も短いですしプロからの意見を入れないとリアルに見えないんじゃないかと。ただ、キャストの意気込みとか勇気を感じて、あえてほったらかしに近い形でいくことにしました。

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BUZZK5
ほったらかし、ですか!その狙いは?

ITO
スパークス、あほんだらという漫才コンビとして生活してもらうってくらいの状況にしようと思ったんです。スタッフやエキストラさんの前で漫才をやることもあって、ウケない場面もあるし、自分らで稽古して試行錯誤して、喜びとか苦しみをコンビとして分かち合って成長していく。そういう形の方が気持ちを作れるんじゃないかと思って、そうしました。

サブ③
©2017「火花」製作委員会

まるでドキュメンタリー。創作を超えた『火花』の裏舞台

BUZZK5
神谷と徳永が心の交流を深めていく中で、神谷がお笑いに関しての様々な哲学を語る姿が印象的でした。その哲学の中に、板尾さん自身もこれまでお笑いを作るうえで意識してきたような点はありましたか?

ITO
芸人さんの気持ちは分かるし、ほとんど重なってます。僕の思いと、ほぼ変わらないです…強いて言うなら、最初の方で神谷が居酒屋で言ってる「相方がライバル」という話ですかね。それって一番大事なことで、僕が今まで見てきた歴代の漫才師でも、まず相方がライバル、という意識の中で面白い漫才が生まれてきてますから、そこは特に共感しますね。

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BUZZK5
相方がライバル、ですか。では、今回お芝居をしたスパークスやあほんだらの感覚は、そういったところまで辿り着いていたんでしょうか?

ITO
話聞くと、撮影ない時もコンビでカラオケ行ったり公園行ったり、隅っこでネタ合わせして、こう言ったらやりやすいねんなぁ、とか言い合っていたみたいで。そうしている間に、相手に対する苛立ちや、ギクシャクしているような感じも若干出てきているのは、僕はシメシメと思っていましたね(笑)。

BUZZK5
まさに、漫才コンビが味わう葛藤ですね!

ITO
ええ、後半は特に、それぞれコンビに見えました。すごく自然で、ドキュメンタリーを撮っているようでしたし、お客さんにとってもそう見えたら良いと思っています。淡々と進んでいく感じがこの作品の良いところで、あえてドラマチックにする必要はないかなと。

サブ②
©2017「火花」製作委員会

「笑い」はテーマではない。全ての人へ向けたメッセージとは?

BUZZK5
『火花』は芸人同士のかけあいが魅力的な作品ですが、その中で徳永の妄想のシーンなども差しはさまれますよね。妄想の世界ということもあって、シュールで笑いのある独特な演出だったと思うんですが、どのように着想を得ましたか?

ITO
徳永の妄想のシーンに関しては、むしろ笑いからちょっと外しているくらいの撮り方をしています。どんな悲しい場面でも、常に変な妄想が入っちゃうっていうのが芸人独特な頭の中で、それをリアルに描くという意味で入れたシーンです。僕はコメディーを撮ったつもりはないし、笑いを狙ったシーンは1カットもないんですよね。笑いにするんだったら笑いにする撮り方とカット割りがあるんで。

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BUZZK5
シナリオ中の会話や表現が面白く、お客さんが笑うような箇所もありましたが、それ自体が狙いではないのですね。最後になりますが、すると、映画を通して描きたかったテーマはどういったところにありましたか?

ITO
原作から受けるテーマは、「人生にバッドエンドはない、これから続きをやるんだ」っていうことですよね。当然それは意識しているんですけど、ただそれを映像化しているうちに、別に漫才師だけの話じゃないなぁっていうことも思いました。

BUZZK5
というと?

ITO
漫才師どうのこうのとか、男も女ももう関係なく、生きている人、全てに対してのメッセージになっていきました。生きているだけで、もう僕たちは幸せなんだって、この映画を通して伝えたかったんです。

サブ④
©2017「火花」製作委員会

BUZZK5
主人公2人が語らいの中で芸を磨き合っていく姿が、生きていることを肯定する普遍的なメッセージになっているということですね。壮大ですけど、映画で彼らの10年間を追ってみると、深く納得できました。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

ITO
ありがとうございました。

0171108_hibana-102板尾創路
1963年7月18日生まれ、大阪府出身。お笑いコンビ130Rのボケ担当としてデビュー。その独特な芸風と存在感で、芸人としてのみならず、俳優としても映画、テレビ、舞台で活躍。2010年の『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューし高い評価を得る。今作は長編3作目の監督作となる。
 
 

『火花』作品情報
■監督・脚本:板尾創路 (『板尾創路の脱獄王』(10)『月光ノ仮面』(12))
■原作:又吉直樹
■出演:菅田将暉、桐谷健太、木村文乃

映画『火花』は、11月23日(木・祝)全国東宝系公開となります!公式サイトはこちら