2017年5月19日に公開された『メッセージ』。よく練られた脚本と作家性溢れる映像表現に定評があるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による今作品は、世界中で話題になりました。今回は『メッセージ』が伝えたかったことに関して解説・考察します。
SFドラマ映画『メッセージ』あらすじ
物語はある一人の言語学者ルイーズ(エイミー・アダムス)の独白から始まります。
不治の病で一人娘を亡くしたルイーズ。悲しみを閉じ込め気丈に振る舞う彼女のもとに、ある日ウェバー大佐率いるアメリカ軍が協力要請に訪れます。
数日前に謎の飛行物体が地球にやってきたことは、もはや世界中で周知の事実でした。
言語学者としての知識を買われた彼女は科学者のイアンと共に、宇宙生命体“ヘプタポッド”が発する謎の言語の解読に挑み、やがて一つの大きな真実に近づいていきます。
映画『メッセージ』の解説・考察
本作はヒューゴー賞など、数々の文学賞を受賞しているSF作家テッド・チャンの短編「あなたの人生の物語」を映画化したもの。
この「あなた」という二人称が、作品を読み解く重要なカギ。
冒頭はルイーズによる独白「あなたの物語はここから始まったと思っていた」という印象的な台詞から幕を開けますが、ここで言う「あなた」はルイーズの亡くなった娘ハンナのこと。
ハンナの誕生から旅立ちまでをダイジェストで観客に提示することで、冒頭から「ルイーズ=娘の死の悲しみを抱えた言語学者」という意識が植え付けられます。
これこそが監督と原作者の思惑でもあるのです。
“ヘプタポッド”
メッセージ映画公式Instagramアカウント(@arrivalmovie)より
原作でのヘプタポッドは「七本脚」の意味で、「一個の樽が七本の脚に接続されて宙に持ちあげられているよう」だと描写されています。劇中ではこの表現を実に見事に再現し、何とも不気味なエイリアン像を創り上げることに成功しています。
そもそもヘプタポッドの目的とは一体何なのでしょうか?
それは、人類に与えられた最大の武器「言葉」の強さを説くこと。
言葉は「時間」という改変不可能な単位ですらも越えた強さがあると、彼らはルイーズの存在を通して世界に訴えかけたのです。
ヘプタポッドたちが操る象形文字を解読していくうちに、彼女は記憶の片隅から解読のヒントになるような思い出を次々に思い出します。
原作でも同様に「現在→過去の回想→現在→回想」という順序で物語が紡がれていきます。
しかし、この順序自体が最も大きな仕掛けの一つ。
現在のルイーズ(ヘプタポッドの言語を解読している時点での彼女)には娘の存在はおろか、結婚さえしていません。つまり、観客が過去の出来事だと思って見ていた彼女の回想は、すべてがヘプタポッドがルイーズに送っている「未来に起こる出来事」だったのです。
彼女は身に覚えのない未来の記憶から、言語解読のヒントを受け取り、ヘプタポッドによるメッセージの解読に成功するのです。
メッセージが人類に与えた影響
ルイーズが見たイメージは、ヘプタポッドによって与えられた予知能力ではありません。彼女は未来の出来事を「予知」したのではなく「事実」として知っていたのです。
謎の飛行物体が世界にもたらした混乱は多大であり、中国のシェン大佐はヘプタポッドへの核攻撃も辞さない状態でした。
ヘプタポッドとの戦争は、人類に"武力による解決はできない"ということを教えようとしていたのです。
彼らの言語を習得することにより、同じように未来を見通すことが可能になったルイーズは、自分が放った言葉によって中国が核攻撃を思いとどまる未来を知ります。
未来記憶と同様に、ルイーズの一言によって核攻撃は止まり、世界に平穏が訪れます。
メッセージがルイーズに与えた影響
ヘプタポッドたちは言語によって世界を変えますが、同時に一人の人間の人生観をも変えてしまいます。
それは他でもないルイーズの人生でした。
彼女は未来記憶により、いつか自分には愛する娘が生まれ、そして自分より先に死んでしまう未来を知ってしまいました。そして娘ハンナの父親は、共に研究に勤しんだ科学者のイアンであることも。
ヘプタポッドの言語は「過去」「未来」といった時間の概念を越えた存在であるものの、そこで起こる出来事をも変える力はありません。
愛する娘に先立たれるくらいなら、はじめから娘のいない未来を選択した方が幸せだろうか?
最終的にルイーズは自分の見た未来を進むことを決意します。
どんなに悲しい結末が待ち受けていたとしても、やがて訪れる、愛する者の温もり、共に過ごした時間はきっと何物にも代えがたい特別なものです。
メッセージ映画公式Instagramアカウント(@arrivalmovie)より
映画『メッセージ』は、宇宙生物による人類愛を提示した哲学的SF作品です。
第89回アカデミー音響編集賞はじめ、20以上の賞にノミネート、4つの賞を受賞しました。
キャストには、主人公ルイーズに『魔法にかけられて』などのエイミー・アダムス、イアン役に『アベンジャーズ』シリーズのホークアイ役でも大人気のジェレミー・レナー、これまでに数々の映画に出演してきた名脇役フォレスト・ウィテカーらが名を連ねます。物語と共に、彼らの名演にも目が離せません。
また、本作で描かれるヘプタポッドたちの乗る宇宙船の形状が、日本の菓子『ばかうけ』に酷似していることから、公式コラボが実現したことで話題になりました。
こちらのコラボに関して監督自身も「宇宙船のデザインは『ばかうけ』から着想を得ている」と日本公開目前にYouTubeに上がった動画で発言しています。
どのくらい似ているのかは、ぜひ本編を観て確かめてみてくださいね。
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