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映画『バーレスク』にみる"ショービジネス"と"ゲイ"

華やかなショーと、圧倒的な歌唱力で人気を博した映画『バーレスク』。スティーヴ・アンティン監督の本作は、クリスティーナ・アギレラ&シェールという2人の歌姫の共演ということでも話題になりました。

女性ならずとも誰もが憧れるサクセスストーリーが描かれた作品ですが、アメリカの同性愛者事情について赤裸々に語られる社会派な一面もあります。今回は、そんな側面から映画『バーレスク』においての同性愛について考察します。

『バーレスク』あらすじ

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舞台はアメリカ・ロサンゼルス。歌手になるという夢をかなえるために、田舎から街へ出てきた女の子アリ(クリスティーナ・アギレラ)が、「バーレス・クラウンジ」と呼ばれるセクシーなショーを見せるお店で、ダンサーとして、歌手として、夢への階段を上ってゆく物語です。

彼女が働くことになるバーレスク・ラウンジは借金まみれ。オーナーのテス(シェール)がお店を手放すか手放さないかと一悶着を起こしている裏側で、歌と踊りのきらびやかなショーの映像が入り、華やかであると同時にドロドロとしたショービジネスの世界を見事に演出しています。

そんな苦境に立たされているオーナーのテスを、ショーン(スタンリー・トゥッチ)という男性が支えます。皮肉屋で心優しい相棒である彼は、店の立ち上げからいた頼もしい存在であり、気難しい彼女の性格を知り尽くしているのです。

スティーヴ・アンティンが監督を務め、2010年に公開された本作は、クリスティーナ・アギレラ主演のミュージカル映画で、ゴールデングローブ賞の最優秀主題歌賞を受賞しています。



ショービジネスとゲイ

本作の舞台バーレスク・ラウンジでは、ショーガールのほかに多くの男性も働いています。経理を務める人物はテスの前の夫ですし、バンド、バーテンダー、照明、衣装も男性が担っています。

華やかなステージは女の子に譲って裏方に徹している彼らを、アリは「みんなゲイなんだろうな」と当初思っていた節があります。

というのもロサンゼルスの安宿住まいが災いして泥棒に遭い、一文無しになった彼女がバーテンダーのジャック(キャム・ギガンデッド)のところに転がり込んだ際に、「お化粧していたから、ゲイだと思った」と告白しているからです。実際はジャックはゲイではありませんでしたが、ショービジネスの世界ではゲイの方は多いということも事実なのです。

アメリカにおけるゲイ

今でこそ同性婚がみとめられている州があり、クリエイティブな職種にはゲイの人が多いというような風潮がみられるアメリカですが、1970年代まで同性愛者はたいへんな迫害を受けていました。

アメリカだけでなく、ヨーロッパのキリスト教圏全域で、同性愛は犯罪、もしくは精神疾患という扱いだったからです。好きな人が同性なだけで犯罪になるのは理解しがたい話ですよね。こうした考えが広まった理由を知るには、キリスト教の原点まで遡る必要があります。

キリスト教とゲイ

旧約聖書の一説にモーゼの十戒というものがあります。そこに書かれた「汝、姦淫するなかれ」という一文を、「子どもができないのに性行為をするのは自然に反するからダメ」と解釈したことが、同性愛が宗教上の罪となった原因と考えられています。

モーゼの十戒にそういった教えはあるものの、実はキリスト自身は同性愛について何も言及していません。

市民運動で勝ち取った人権

1960年代。アメリカでは市民運動が盛んになり、人種差別撤廃や女性解放が叫ばれる中、同性愛者たちも同性愛に対する憎悪を払拭しようとライフスタイルや志向を主張するようになります。

その結果、1970年代にはアメリカ精神医学会の精神疾患リストから「同性愛」の項目が削除されるに至ります。その後も彼らは、エイズの大流行をはじめとする様々な偏見をタフに乗り越えてきた経験があるのです。

『バーレスク』におけるゲイ

ステージに立つ職業というのは、性別問わず、人を魅了するカリスマ性がなければ務まらない職業です。特にショーの本場ロサンゼルスであればなおさら。全ての人を虜にする演出、セットや衣装などをデザインするのに有利なのは、男性目線のセクシーさと、女性目線のゴージャスさを理解することができるセンスが必要となります。

「こういうステージなら男はグッとくるし、夢見る乙女心もくすぐることができる」といったプロデュース力は、両性の心を理解することができるゲイの方だからこそ。

例えば衣装を担当しているショーン。テスの片腕としてはもちろん、他のスタッフからの信頼も厚い彼ですが、作中ではゲイとして描かれています。「ちらっと見せて、ちらっと隠して」というバーレスクの特性上、衣装はとても大切です。前提としてセクシーでなければならず、だけれども下品すぎずかつ上品すぎない、そしてフランクだけれどもゴージャス。ショーガールたちを一番素敵に見せる重要な要素を、男目線と女目線を使い分けられるショーンが担っているのです。

最後に

こうした歴史的背景を通して『バーレスク』を観てみると、登場人物それぞれの関係性もまた少し変わって見えてくるはず。本作の新たな側面として、頭の片隅にそんな事実も置きつつ楽しんで観てもらいたい映画です。

一番の見どころであるショーのシーンはどれも圧巻ですが、ショーガールの1人が結婚するシーンでは、ショーンがとてもキュートですので注目してみてください。