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映画『キングスマン』シリーズにおける"紳士"の条件とは

前作、圧巻のラストで観客の心をかっさらった"あの英国紳士"たちが帰ってくる──。

キレッキレのアクションとぶっ飛んだラストで一躍話題となった新時代のスパイ映画『キングスマン(2015年)』。その続編となる『キングスマン:ゴールデン・サークル(2018年)』がいよいよ日本にやってきます。

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

今回も紳士たちによる華麗なアクションは健在。紳士による紳士たる戦いっぷり(?)に、観客は再び心を奪われること必至です。2018年1月5日の公開に先駆けて、前作『キングスマン』でたびたび触れられる"紳士"の条件について考えてみたいと思います。

『キングスマン』作品概要


映画 KADOKAWA YouTubeアカウントより

あらすじ

ロンドンの中心街にあるショッピングストリート、サヴィル・ロウ。オーダーメイドの名門紳士服店が軒を並べ、日本の「背広」という言葉の由来との説もあるこの地に店を構える高級紳士服店「キングスマン」。この高級テーラーは世界規模の独立機関であり、世界を守るために暗躍するスパイ組織「キングスマン」の拠点という裏の顔を持っていました。

幼いころに父を亡くし無為に怠惰な日々を過ごす不良青年のエグジー(タロン・エガートン)。ある日、彼はつまらない犯罪で逮捕されてしまいます。そして正体も知らぬままに"キングスマン"の保釈の助けを得ることになりますが、そこへ訪れたのはディグジーことハリー・ハート(コリン・ファース)。父親がかつて「キングスマン」の候補生であったことを知ったエグジーもまた、その候補生に加わるのでした。

一方で、人類はある1人の大富豪の実業家により存亡の危機にさらされていました。そしてハリーはヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)という実業家が絡んでいることを突き止めます。

登場人物

キングスマン
amazon.co.jp

1作目では"キングスマン"が実業家ヴァレンタインから人類を救う様子が描かれています。この悪役となる実業家を『パルプ・フィクション(1994年)』、『アイアンマン(2008年)』などに出演しているサミュエル・L・ジャクソンが好演。

サミュエル・L・ジャクソン公式Instagramアカウント(@samuelljackson)より

劇中でハリーが「昔の007が好きだ。シリアス過ぎないし、ヴィラン(悪役)がいい」と言うセリフもあるように、地球を守るための正論を吐くクレイジーな天才IT実業家であり、血が苦手という悪役らしからぬ一面も持ち合わせた、とても魅力的なキャラクターです。

エグジーを演じるのは、本作が彼の出世作となった注目の若手俳優、タロン・エガートン。

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

そしてエグジーの師となるハリーを演じたのは、名優コリン・ファースです。

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

『英国王のスピーチ(2011年)』でのオスカー受賞も記憶に新しいですが、『ブリジット・ジョーンズの日記(2001年)』、『真珠の耳飾りの少女(2004年)』など、およそアクション映画には縁がなかった彼の新境地となる作品。実際に英国出身で大英勲章第3位も受けた彼のスマートな身のこなしに魅せられた観客が続出しました。



「紳士」とは?

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

劇中でハリーは、きっぱりと言います。

「Manner maketh Man.」

「マナーが、作るんだ、──人間を。」と。そして「キングスマンは真の紳士だ。」と。
それでは"紳士"とは一体どんな人を指すのでしょうか。

まず「紳士」を辞書で引くとこうあります。

(1)上流社会の男性
(2)上品で教養があり礼儀正しい男。ジェントルマン
(3)成人男性の敬称

いくつかの辞書で"上流社会の人"や"高い地位にある男性"といった意味を見かけます。今、「紳士」と聞いて私たちが思い浮かべるのは、スーツ姿のジェントルマン、つまりは(2)の「知性や品格に溢れた身だしなみの良い男性」のイメージがほとんどです。

もともと「紳士」とは、中国で国の支配者層にいる人たちのことを指しました。というのも、高位高官の人が礼装のときに用いた幅の広い帯のことを「紳(しん)」と言ったそうです。この大帯をしている人のことを「縉紳(しんしん)の士」と呼びました。

「縉(しん)」とは差し挟むことで、礼装のときに手にしている笏(しゃく)をこの大帯に差し込んでいる人を「縉紳の士」と呼ぶうちに、「紳士」に略されたのだとか。笏というのは、聖徳太子が手にしているあの"しゃもじ"のようなもののことです。

日本では明治時代に「gentleman」が「紳士」と訳され使われていくうちに、いつのまにか"礼儀正しく洗練された立派な男性を指す"という概念の方が定着して今に至っています。

キングスマン流 "紳士の条件"とは

『キングスマン』シリーズではたびたび「紳士」についての会話がなされます。それではいよいよ『キングスマン』における"紳士の条件"とはいったいどのようなものなのか、考察していきましょう。

先ほどのハリーの「Manner maketh Man.」のセリフからも、ハリーが指しているのは、「(2)上品で教養があり礼儀正しい男。ジェントルマン」であることがうかがえます。

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

しかし1作目に登場するキングスマンのリーダーであるアーサー(マイケル・ケイン)とのやりとりを見ると、従来"キングスマン"はエリート階級から選出された者たちで構成されているということが推察できます。

アーサー自身が上流階級の人間で貴族社会をとても重んじており、他の候補生の若者たちの経歴を見ても、みな高学歴・高階級から選りすぐられた若者たち。もともと「キングスマン」に入るには「紳士」の従来通りの意味である「(1)上流社会の人」が条件だったことが判ります。

それを変えようとしているのがハリー。アーサーに認められていることから彼もおそらく上流階級の人間ですが、彼は家柄も学歴もないエグジーや、おそらく中流家庭だったエグジーの父親のことを暗に批判するアーサーに「世界は変わった」と告げます。

"キングスマン=真の紳士"という考えは、キングスマン全体の共通認識ではありますが、その"紳士のなんたるか"が問題です。

アーサーはじめ従来の「紳士」は血筋や家柄、つまり"出自"であり、ハリーの「紳士」は志、つまり"精神"です。その後の展開を見てもハリーの言うところの"紳士"が「キングスマン」の活動を継続していく上で正しかったことが判ります。

セリフから紐解く"紳士の条件"とは?

次にハリーのセリフから"紳士の条件"を紐解いていきましょう。

「スーツは現代の鎧、キングスマンは新時代の騎士」
精神を重んじるハリーにとって、騎士道の中に"紳士像"を見ているのかもしれません。騎士道は勇気と忠誠、信念や礼節を重んじていて、ハリーのセリフにもこれらが如実に表われています。

「人は生まれた家柄で紳士になるんじゃない、学んで紳士になるんだ」
これはハリーが常に口にすること。向上心と希望、そして自信。この気高い志こそ紳士に必要なエレメントということでしょう。

「まずは正しい礼儀を学ぶんだ。次に正しいマティーニの作り方」
洒落ています(笑)。こういうウィットも紳士には必須かもしれませんね。

「紳士の名が新聞に載るのは3度だけ。生まれた時、結婚した時、死んだ時。」
紳士たるもの自分の功績は表に出ずとも良い…これは世界で暗躍するキングスマンにはピッタリのセリフではないでしょうか。

「紳士に必要なのは上等なスーツだ。既製ではなくオーダーメイドの」
あれれ?やっぱり形から…?と思うことなかれ。"本物"を知ることが本当の紳士。とはいってもキングスマンのオーダーメイドスーツはもれなく防弾仕様だそうなので、実益も兼ねているようです(笑)。

以上を鑑みると、『キングスマン』における"紳士の条件"とは、つまり"騎士道"にあり、騎士かどうかは問題ではなく、その騎士道を心に宿すものこそが"真の紳士"であるということになります。

円卓の騎士がモチーフ

「アーサー王物語」を読んだことがある方は、『キングスマン』を観て「アーサー王物語」に登場する"円卓の騎士"がモチーフにされていることに気づかれたかも知れません。

キングスマンのリーダーの名前はアーサー、教育係のマーリンはアーサー王を助け導く魔法使いの名前です。メンバーのコードネームはガラハット、ランスロットと円卓の騎士たちの名前。

"円卓"は騎士たちが巨大な丸いテーブルを囲んだことに由来していますが、「すべての席は王と対等である」という思想に基づいています。これはハリーの言う「人は生まれた家柄で紳士になるんじゃない」という考えに通じています。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』では「ステイツマン」が登場

公開を間近に控えた『キングスマン:ゴールデン・サークル』では、1作目の『キングスマン』のメンバーに加え、新たにアメリカの同盟スパイ機関「ステイツマン」が登場します。

キングスマン映画公式Instagramアカウント(@kingsmanmovie)より

出演は1作目のコリン・ファース、タロン・エガートン、マーク・ストロングに、新たに加わったのがチャニング・テイタム、ジェフ・ブリッジス、ハル・ベリーら。

イギリスの「キングスマン」は高級紳士服店ですが、「ステイツマン」はバーボン会社で、いでたちもスーツ…ではなくカウボーイ・スタイル。戦闘時の華麗な手綱さばきに乞うご期待!

所変われば品変わる。場所が変われば人も変わります。"キングスマン"の紳士観が、2作目の舞台となるアメリカの流儀の中でどう展開していくのかも注目したいところ。

最後に

いかがでしたか?最後に、まるで"キングスマンたる紳士の条件"を総括したような、ハリーが引用したヘミングウェイの言葉で締めましょう。「他人より優れた者でなく、過去の自身より優れた者が気高い」

新作『キングスマン:ゴールデン・サークル』では、このハリーのセリフがエグジーの中でどう生きているのかを、その目で見届けてください。

参考:加藤周一編(2012年)『世界大百科事典』平凡社、『日本大百科全書』小学館、『大辞泉』第二版, 小学館