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映画『最強のふたり』を観るべき理由。あらすじと見どころ

世の中には数多くの心温まる名作映画があります。『最強のふたり(2012年)』もそうした映画のひとつに数えられることでしょう。しかし、この作品が他の同ジャンル映画とは一線を画した傑作であることは、興行的成功、および受賞歴からも一目瞭然。

本記事では、『最強のふたり』がどうしてこれほどまでに愛される作品なのか、その理由を見どころと併せてご紹介いたします。

『最強のふたり』の概要

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『最強のふたり』あらすじ

舞台はフランスは花の都パリ。パラグライダーの事故で全身まひとなり、車いすでの生活を余儀なくされたフランスの大富豪フィリップ。彼は新たな介護人を募集するために面接を行います。そこに失業手当が目当てに現れたのは、スラム出身の黒人青年ドリス。誰よりも素直な彼にどこか引かれたフィリップは、ドリスを正式に採用することに。身分も性格も、何もかもが違う2人が織りなす奇妙かつ心温まる友情物語です。

キャスト

フランスの大富豪フィリップを演じるのはフランスの名優フランソワ・クリュゼ。2006年にフランスで公開された『唇を閉ざせ』では、フランス版のアカデミー賞であるセザール賞にて主演男優賞を獲得。またフランス映画のみならず、『プレタポルテ(1995年)』や『フレンチ・キス(1995年)』などのアメリカ映画にも出演しています。

スラム出身の黒人青年ドリスを演じるのは、同じくフランスの俳優であり、コメディアンでもあるオマール・シー。彼は本作品においてセザール賞の主演男優賞を獲得しています。文句なしの演技力を誇る2人によって描かれる友情の物語は必見です。

受賞歴

セザール賞においてはオマールの主演男優賞以外にも8部門のノミネートを果たしていて、評価の高さがうかがえます。その翌年には日本アカデミー賞において最優秀外国作品賞を獲得。日本においても高い人気を得ています。

差別的な映画という批判はありますが、本当にそういう意図が含まれているのならこうした賞をとることまずないはず。重いテーマを内包しつつ、だれが見ても笑えるようなコメディーに昇華しているのは見事です。



『最強のふたり』の見どころは?

冒頭からして目が離せない!

まずは映画が始まってすぐ、一番初めのシーンです。ドリスが運転するフィリップの高級車と、助手席にはポスターイメージとは異なる髭を蓄えたフィリップの姿が映ります。もの悲しいピアノ曲をバックにイタリアの高級車が疾走するシーンは、パトカーに追跡されるなど、なんとも緊迫した空気。逃げ切れるかどうかに200ユーロを賭けた2人は、見事な協力プレーによって警察を振り切ります。

ここでムードは一転し、ドリスがファンクミュージックバンドであるEarth, Wind & Fireの「September」を流します。ノリノリでフランスの夜を駆ける2人。このシーンの本当の良さは、映画を見終わってから理解できるはず。

実はこの映画においてEarth, Wind & Fireは重要な役割を担っています。フィリップの誕生会で演奏されるクラシックに飽き飽きしたドリスが、フィリップの前でダンスを披露する際に流れる曲もEarth, Wind & Fire。暗いピアノ曲が多い劇中において、軽快なダンスミュージックは彼らの心の中の光と闇を反映しているかのような印象さえ受けます。

フランスの社会問題に真正面から切り込んでいる

フィリップはフランスの大富豪で、ドリスはスラム街の貧しい家の出身。フィリップは白人で由緒ある家系の人間、ドリスは移民系の出身。フィリップは体の動かない中年で、ドリスは筋肉質な長身の黒人。こうした2人が描く友情物語には、実は現代フランスが抱える様々な問題が内包されています。

ドリスの就職活動がうまくいっていなかったのは、なにも彼が怠けていたからというわけではありません。フランスにおいて、移民系の黒人が職を得るということは非常に困難なこと。彼はそんな事情から、失業手当に頼るしかなかったと思われます。家族も多いため、早急にお金が必要だったのです。

実際にフィリップの娘も、黒人の介護人であるドリスを見下しています。一方のドリスは、フィリップの文通相手の出身地を聞いて「ブスの多い場所だ」と発言しています。こうした表現はなにも誇張されたものではなく、現代フランスにおける暗い部分として実際に存在しているものです。人種差別は、移民の多いフランスにおいて大きな問題と言えます。

特別扱いこそ差別?健常者と障がい者の対比

本作では健常者と障がい者というテーマにも切り込んでいます。フィリップが外出する際、ワゴン車の荷台部分に車いすごと載せているのを見たドリスは、「そんな馬みたいに運ぶのか!?」と疑問を投げかけます。ドリスにとってフィリップは、他の人と同じように車の座席に腰掛けるべき人間なのです。

多くの人が障がいを抱える人を特別に扱おうとします。優しい気遣いからかもしれませんが、当の本人がそうしてほしいとは限りません。実際に、フィリップは自分のことを特別扱いしないドリスの人間性にだんだんと魅力を感じていきます。

健常者同士どころか、仲のいい友人同士でないとできないようなことを、これだけの違いを抱えた2人が経験していく様子には、自分の振る舞いをも見つめ直したい気持ちにさせられます。

オマール・シー公式Instagramアカウント(@omarsyofficial)
※現在の放送情報ではありません

現実から目を背けない。ドリスに見習いたいフラットな視点

こうしたテーマを扱った映画が批判を浴びることは必定です。スラム街を映したシーンには黒人以外出てきません。風俗関係の女性はすべてアジア系です。裕福な暮らしをしているのはみんな白人。日本人である我々が見ても何も感じないかもしれませんが、実際にフランスで暮らしている人にとってはあまりにも典型的な人種の区別に映るかもしれません。しかし、見方を変えればそうした現実から目を背けず、しっかりと向き合った映画なのです。

ドリスの発言には、ただ聞いただけでは差別的としかとらえられないようなものもかなりあります。しかしドリスは、思ったことを素直に言っているだけ。彼にとっては、障がい者に気を遣った対応そのものが差別なのでしょう。健常者と障がい者がフラットに接することで、彼らの友情は生まれたのです。

あくまでコメディ!思い切り笑っちゃおう

『最強のふたり』は、上記のようなテーマを表立って訴えかけているわけではありません。ただ楽しんで見る分にはとても愉快なコメディ映画なのです。テンションの高いドリスと堅物のフィリップが展開する会話には、そこかしこにジョークが含まれており、それはブラックなものから政治的な皮肉、下ネタなどバリエーションもさまざま。

ドリスの食べているチョコレートをフィリップが欲しいと言うと、「このチョコレートは健常者用だ」とジョークを言います。かなりブラックなジョークです。さらにフィリップの詳しい事情を聞いたドリスは「俺なら自殺するね」とまで。フィリップはそれに対して「障がい者にはそれも難しい」と返します。なかなか笑いに変えることが難しいテーマですが、彼らがそれを望んでいるのでしょう。

なんと実話がもとになっていた!?

大富豪で体の動かない白人と、スラム出身の貧しい黒人の友情。一見すると感動させるための設定と言われても否定はできないかもしれません。しかしこの映画は実話をもとにしています。事実と異なる点はいくつかありますが、富豪と移民の友情という物語の本筋に違いはありません。ただ単に感動を呼びたいがために作られた設定であったら本当に差別的だったかもしれませんが、事実が根底にあるからこそ、必要以上に差別的には映らないのです。

どうして『最強のふたり』を観るべきなのか

オマール・シー公式Instagramアカウント(@omarsyofficial)
 
障がい者と健常者、大富豪とスラム出身、堅物と根明。フィリップとドリスは間にはさまざまな対比があるにもかかわらず友情が芽生えています。お互いにないものばかり持ち合わせていても、彼らがそれを悩んだり妬んだりすることはありません。自分に無いものではなく、自分にあるものは何なのか、自分に無いもののせいで本当に不幸なのか。笑って泣ける『最強のふたり』は、そういったことを考えさせてくれます。