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映画界に名を残す名匠。黒澤明監督の時代に埋もれない名作10選

『スター・ウォーズ』シリーズの諸作が「クロサワ作品」へのオマージュを込めているなどのエピソードから、再び脚光を浴びている黒澤明監督。日本を代表する映画監督であり、「世界のクロサワ」の異名を持つ名匠ですが、作品にはモノクロームや時代劇が多いため、敷居が高く思われがちです。しかし、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ、ウディ・アレンら、名だたる名監督から敬意を評されており、実はイメージ以上に現代的な作風なのです。

今回は映画史において燦然と輝きを放っている、黒澤明監督のおすすめ作品10選をご紹介します。

椿三十郎【1962年】

椿三十郎
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あらすじ

藩の汚職事件について、誰が「黒」で誰が「白」なのか意見を交わし合っていた侍たちの前に、流れ者の浪人(三船敏郎)が現れます。彼らの話を聞いていた浪人は、彼らが信頼できると結論を出した城代こそが怪しいと注意をうながすのです。謎の浪人をいぶかしんでいた侍たちでしたが、話をしていた社殿の外を見ると、城代が遣わした刺客たちにすっかり囲まれており…。

見どころ

世界中にセンセーションを起こした『用心棒(1961年)』の翌年、同じ主人公を立てて製作された、痛快アクション時代劇です。プロの殺陣師も顔負けという剣の名手だった名優・三船敏郎の刀さばきは、速すぎるあまりフィルムに映らなかったという噂も。仲代達矢演じる室戸半兵衛との対決シーンは鮮烈で、後続の時代劇シーンに大きな影響を与えた言われています。クロサワ映画をまず一本観ようという方には絶対おすすめしたい作品です。



用心棒【1961年】

用心棒
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あらすじ

流れ者の浪人(三船敏郎)は、すっかり荒れ果てた宿場町にたどり着きます。そこでは賭場を牛耳る清兵衛(河津清三郎)と丑寅一族との抗争が絶えず、町人たちは怯え、商売もままならない様子。居酒屋の権爺(東野英治郎)から町の内情をきいた浪人は、丑寅の子分らを斬り倒し、剣の腕前を見せつけることで、清兵衛一家のボディーガードとして自身を売り込むのでした。

見どころ

空前の「侍ブーム」を巻き起こし、リメイク作『荒野の用心棒(1964年)』が作られるなど、世界中に影響を与えた作品。海外の子どもたちも、三船敏郎扮する浪人を真似したと言います。西部劇のエッセンスを骨太な時代劇へ盛り込んだような世界観が新鮮で、ぞくぞくさせられるオープニングと、テーマ曲も魅力的です。銃をあやつる、チャラチャラとした仲代達矢のファッションのユニークさにもご注目ください。

七人の侍【1954年】

七人の侍
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あらすじ

戦国時代、収穫時期の農村を襲って食料を奪っていく武士崩れの「野伏り(のぶせり)」に、人々は怯えて暮らしていました。武士を雇って襲撃に備えようとする村人たちでしたが、村は貧しく、報酬として用意できるのは食べ物だけと、心もとない状況。そんな時、心根が良く腕の確かな浪人・島田勘兵衛(志村喬)が現れるのでした。

見どころ

『マグニフィセント・セブン(2016年)』としてハリウッドでリメイク作が公開されるなど、長きに渡って愛され続ける傑作アクション時代劇。1954年にはヴェネツィア国際映画祭にて銀獅子賞を受賞しています。雨の中、泥まみれで繰り広げられる合戦は、映画史に残る名シーンと呼ばれています。ぬかるみの状態ひとつにもこだわって墨を混ぜたり、火災の場面で家屋を本当に燃やすなど、ダイナミズムを追求した撮影が、迫力の映像を生み出しています。

天国と地獄【1963年】

天国と地獄
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あらすじ

ナショナル・シューズ社、常務の権藤金吾(三船敏郎)の邸宅へ、「息子を誘拐した。身代金3000万円で解放する」との電話が。ほどなく息子が姿を見せたため、いたずら電話だったのかと一同は安堵します。ところが、権藤の運転手・青木(佐田豊)の息子の姿が見えず、犯人が子どもを間違えて誘拐したことが発覚。子どもを助けるには身代金を払うしかありませんが、権藤は3000万円を払えないある事情を抱えていたのです。

見どころ

時代劇で無敵のヒーローとなった三船敏郎が、本作では誘拐犯にふりまわされ、苦悩する現代人を熱演。あえて絵変わりせず、権藤家の一室のみで撮影するドキュメンタリー的手法がとられた冒頭シーンは、緊迫感と閉塞感を高めています。走る列車から身代金を受け渡すシーンは電車を貸し切って行われ、一発でパーフェクトな撮影を求められたそうです。本作のラストを変えたと言われる名演技をみせた山崎努も、存在感を放っています。

生きる【1952年】

生きる
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あらすじ

市役所勤めで定年間近の渡辺勘治(志村喬)は、体調に異変を感じ、病院で軽い胃潰瘍だと診断されます。診断結果を信用しきれず、「死」を意識するようになった彼は、不安から仕事を無断で休み、夜の街へと繰り出します。しかしパチンコやストリップなどで散財するも、心は晴れないまま。そんな時ばったり出会った、職場の若い女性・小田切とよ(小田切みき)。彼女と時間を過ごすうちに渡辺は、死期の近い自分にも出来ることがまだあるはずだ、と思い直るのでした。

見どころ

主演・志村喬が、最低限の台詞と豊かな表情で渋い演技を見せています。堅物の渡辺が慣れない夜の街を遊び歩く姿は、ファンタジックな演出が光っており、おとぎの国に迷い込んだ少年のようです。繰り返し流れる「命短し恋せよ乙女…(ゴンドラの唄)」の哀感あふれるメロディが、エンディングでは観客への励ましへと変わる、不朽の名作です。

隠し砦の三悪人【1958年】

隠し砦の三悪人
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あらすじ

戦乱の世に生きる、太平(千秋実)と又吉(藤原釜足)は、逃げ延びた先で屈強な謎の男(三船敏郎)と出会います。男のアジトである隠し砦は、戦に敗れた秋月家の生き残り・雪姫(上原美佐)らが、お家再興のため身を隠しており、屈強な男は真壁六郎太なる侍大将でした。隠し砦が敵方に見つかるのも時間の問題。雪姫、六郎太、太平、又吉の4人は、同盟国の早川領まで逃げ延びるため、農民に扮して旅をすることになります。

見どころ

『スター・ウォーズ』シリーズに登場するロボット、C3POとR2D2は、太平と又吉のでこぼこコンビをモチーフとしているそう。2人のユーモラスなやり取りが、戦国時代の緊張感に、とぼけた妙味を加えます。最大の見せ場は、三船敏郎演じる六郎太が、疾駆する裸馬の上で繰り広げる殺陣のシーン。CGが当たり前となった時代だからこそ刮目していただきたい大迫力のカットとなっており、必見の名場面です。

野良犬【1949年】

野良犬
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あらすじ

若手刑事の村上(三船敏郎)はバスの車内で、コルト式拳銃をスリに奪われてしまいます。拳銃には銃弾が7発残っており、新たな事件を引き起こしてしまう可能性も。村上はピストルが闇取り引きされる場所をつきとめますが、あと一歩というところで男を取り逃がしてしまいます。しかし彼はその後ベテラン刑事の佐藤(志村喬)とバディを組むことになり、捜査を続行するのでした。

見どころ

数々の刑事映画のひな形になったと言っても過言ではない、画期的な作品。当時としては珍しく、実際の町でロケーションを行い、戦後の風景がドキュメンタリー風に収められています。熱意とは裏腹に頼りない刑事を演じる、若き三船敏郎の線の細さ、美しさが新鮮です。三船がプライベートでも父親のように慕っていた名優・志村喬が先輩刑事として出演しています。

蜘蛛巣城【1957年】

蜘蛛巣城
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あらすじ

忠誠心の強い武将・鷲津武時(三船敏郎)と三木義明(千秋実)は、君主・都築国春(太刀川寛)の住む蜘蛛巣城へ馬を走らせている途中、森で道に迷ってしまいます。雷鳴とどろく中、謎の老婆(三好栄子)が姿を現し「武時は北の館の城主になった後、蜘蛛巣城の城主になる。義明は、一の砦の大将となり、その子どもはやがては蜘蛛巣城の城主となる」との予言を残します。信用しない2人でしたが、蜘蛛巣城へ戻ると、君主から予言通りの褒美がとらされ…。

見どころ

シェークスピアの戯曲『マクベス』をベースにした、妖しげな雰囲気漂う異色の時代劇。名匠ウディ・アレン監督も、オールタイムベストにその名を揚げる名作です。ヒーローとして魅せてきた三船敏郎が、本作では、狂気を帯びていく戦国武将を演じています。鷲津武時が弓矢で命を狙われるシーンは、スタントマンなしで実際に矢を顔ぎりぎりの所へ撃ち込まれたのだとか。さすがの三船も生きた心地がせず、ひどいストレスを負ったそうですが、迫力の名シーンとなっています。

赤ひげ【1965年】

赤ひげ
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あらすじ

長崎で3年間オランダ医学を学んだ保本登(加山雄三)は、自信をつけて江戸へ帰って来ますが、婚約者のちぐさ(藤山陽子)は他の男の子どもを出産しており、当然なれると思っていた幕府の御番医師にもなることができませんでした。出世の道が閉ざされたと感じた保本は、酒に溺れるなどして所長の"赤ひげ"こと新出去定(三船敏郎)を困らせながらも、小石川養生所の見習い医として、住み込み生活を始めるのでした。

見どころ

『椿三十郎』で爽やかな武士役が光っていた加山雄三は、本作で若き医師を好演。前半は、メタボ、精神障害、ガンなど、現代人に通じる悩みを抱えた人々が訪れる療養所の過酷な日常が描かれます。『椿三十郎』ばりの鮮やかなアクションを三船が披露する場面もあり、見どころ満載です。後半では成長した若き医師・保本と、心に傷を持った少女の交流が丁寧に描かれ、涙を誘います。男性中心の世界観になりがちなクロサワ映画ですが、市井に生きる女性のエピソードが多いことも本作の特徴で、脇を固める名優たちの存在も光っています。

静かなる決闘【1949年】

静かなる決闘
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あらすじ

戦医として従軍し、負傷兵の手術中に患者の梅毒に感染してしまった藤崎恭二(三船敏郎)。当時、梅毒は不治の病にひとしく、性交渉での感染が主だったため、彼は婚約者の美佐緒(三條美紀)らに梅毒であることを隠して生活します。結婚へ踏み切りたい美佐緒の思いに、悩み抜く藤崎。そんな折、戦地で梅毒を患っていた負傷兵の中田(植村謙二郎)とひょんなことから再会し、相変わらず治療もせず、自堕落な生活を続けていることを知ります。

見どころ

三船敏郎が、秘密を隠し持つ若者を繊細に演じる、隠れた人気作です。少し長めの前髪をニヒルに掻きあげる姿がセクシーで、二枚目スターの風格が出ています。戦時中、日本軍でカメラマンをしていたという三船敏郎は、戦争の過酷さを骨身にしみて理解していた人物。戦争でこうむった悲劇に対しての「やるせなさ」という演技も、真に迫ったものがあります。

最後に

いかがでしたか?何本かご覧になれば、スピーディーな展開や、作品ごとに新たな表情を見せる三船敏郎など、イメージ以上に楽しめる作風に驚くことでしょう。「世界のクロサワ」と呼ばれながらも、本国日本では時代とともに知る人が少なくなっているのも事実です。痛快でホロリともさせてくれる色褪せない名作の数々を、この機会にぜひお楽しみ下さい。