歴史フィクション映画と言うと、何だか難しそう、あまり歴史に詳しくないのに楽しめるのかな、というイメージでなかなか手が伸びないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方々のために、今回はおすすめの歴史フィクション映画10選をご紹介します。
目次
カティンの森【2009年】
あらすじ
舞台は1939年に結ばれた独ソ不可侵条約を背景に、ドイツとソ連に分割統治されることになったポーランド。アンナ(マヤ・オスタシェフスカ)と娘・ニカ(ヴィクトリア・ゴンシェフスカ)は、一緒に逃げようと夫・アンジェイ(アルトゥル・ジミイェフスキ)を探して奔走していました。駅でソ連へ連行される間際のアンジェイを見つけますが、アンジェイは大尉という立場で軍に忠誠を誓っているため逃亡を拒否します。
その後、捕虜として教会に収容されるアンジェイですが、見聞きしたすべてを日記に書くことを決めます。1943年、ドイツ軍によってカティンの森近くで1万人以上のポーランド将校の死体が発見されました。アンナは、事件の真相をアンジェイの記した日記によって初めて知ることになります。
見どころ
アンジェイ・ワイダ監督の父もまた、カティンの森事件の被害者でした。監督の母は生涯にわたって父の生還を信じていたといいます。というのも、被害者名簿の姓名が父のものと完全には一致しなかったからです。このような経歴が背景にあるため、本作は単なるエンターテイメントではなく、限りなく実話に近いと言えます。
特筆すべきはマヤ・オスタシェフスカの演技。事件の真相が分からない悔しさ、夫が生きているか死んでいるか分からない不安に思わず感情移入してしまい、胸が締め付けられます。また、アンナと一緒に事件の真相を探っていくような見せ方になっているため、ラストで明らかになる事件の真相は一生忘れられないものになるでしょう。
君の涙 ドナウに流れ ハンガリー1956【2007年】
あらすじ
メルボルン五輪に向けて練習に励む水球チームのエース、カルチ(イヴァン・フェニェー)は、ハンガリー革命に参加することを決意します。やがて学生デモを取りまとめていたヴィキ(カタ・ドボー)と出会ったカルチが目撃したのは、ソ連軍が市民に発砲する姿でした。水球チームのコーチやメンバー、そして母から「五輪に出場できなくなる」という警告を受けながらも、自由を手に入れるために革命に傾倒していきます。
見どころ
1956年、ソ連の弾圧支配に民衆が耐えられなくなったことで起きたハンガリー革命を背景にした映画です。ハンガリー革命のみならず、1956年のメルボルンオリンピックで起きたメルボルンの流血戦に関する描写もあります。五輪水球競技のソ連対ハンガリー戦で、ハンガリー選手が負傷した事件です。
映画の最後に流れてくるハンガリーの作家マライ・シャーンドルの『天使のうた』には、胸を打たれること間違いなしです。
グッバイ、レーニン!【2004年】
あらすじ
東ドイツに住んでいたアレックス(ダニエル・ブリュール)。母・クリスティアーネ(カトリーン・ザース)は、熱狂的と言えるほどに社会主義を支持しています。それはアレックスの父・ローベルト(ブルクハルト・クラウスナー)が西ドイツに亡命したことがきっかけでした。そんなクリスティアーネは、東ドイツ建国記念日にアレックスが反体制デモに参加しているのを見て、ショックのあまり心臓発作を起こしてしまいます。
その後、奇跡的に目が覚めたクリスティアーネでしたが、すでにベルリンの壁は崩壊。次に大きなショックがあった時にはどうなるか分からない、と医師に宣告されてしまいます。アレックスは、必死で東西ドイツ統合の事実をクリスティアーネから隠そうと奔走することになるのでした。
見どころ
1989年の東西ドイツ統合を背景にしており、ドイツで歴代興行記録を更新した作品です。ベルリン国際映画祭では、最優秀ヨーロッパ映画賞を受賞しました。必死で東西ドイツ統合の事実を隠そうとするアレックスの行動は一見コメディじみてはいますが、なかなか想像するのが難しい、当時の一般市民の混乱を巧みに映し出していると言えます。
イースト/ウエスト 遙かなる祖国【2001年】
あらすじ
フランスに亡命していたロシア人の夫アレクセイ(オレグ・メンシコフ)とフランス人の妻マリー(サンドリーヌ・ボネール)、息子セルゲイ(ルーベン・タピエロ)は、スターリンの特赦を受けてソ連へ帰ります。新生活の自由な暮らしを想像していた一家が目の当たりにしたのは、不自由な共同生活、秘密警察による監視、親しい様子で近づいては素性を探ろうとする密告者…。
そんな中でマリーが見つけた希望の光は、水泳選手のサーシャ(セルゲイ・ボドロフ・ジュニア)でした。マリーはサーシャを外国へ亡命させようと奔走します。時を同じくして、アレクセイは共産党員として周囲の人間に一目置かれ、さらに浮気も発覚するなど、マリーにとって裏切りに思えてならない行動が続きます。
見どころ
第二次世界大戦後の亡命帰還者とソ連時代の市民生活を描いた作品です。『インドシナ(1992年)』でアカデミー外国語映画賞、ゴールデングローブ賞外国語映画賞などを受賞したレジス・ヴァルニエが監督を務めています。
マリー役には、デビュー作『愛の記念に(1983年)』でセザール賞新人女優賞を受賞し、その後もヴェネチア国際映画祭で女優賞を受賞している実力派女優サンドリーヌ・ボネールが抜擢されています。外国人というだけで厳重な監視下に置かれたマリーの心情がひしひしと伝わってくるような、迫真の演技は必見です。
あの日の声を探して【2015年】
あらすじ
1999年に起きた第二次チェチェン戦争。両親を目の前で銃殺されたショックで声が出なくなってしまった9歳の少年ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、EU職員でありながら戦争を止めることさえできないと苦悩するキャロル(ベレニス・ベジョ)に出会い、保護されます。心を開かないハジと仕事が上手くいかずにイライラするキャロル。2人は互いに作用しあい、成長していきます。
一方、マリファナを持っているのが偶然見つかって強制的に軍に入隊させられてしまう青年コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)。穏やかな青年だったはずのコーリャも、このチェチェン戦争によって少しずつ軍に染まり冷酷になっていくのでした。
見どころ
アカデミー賞を始めとする数多くの賞に輝いた『アーティスト(2012年)』のミシェル・アザナヴィシウス監督が「どうしても描きたい」と思い続け、実現した作品です。カンヌとトロントの国際映画祭に正式出品された本作ですが、ハジとハジの姉の役者はチェチェンの素人の子どもたちだと言うから驚き。彼らの演技と、ハジとコーリャの2つの物語の全てが繋がる衝撃のラストは各国のメディアから称賛されました。
ライフ・イズ・ビューティフル【1999年】
あらすじ
第二次世界大戦前夜に田舎町に引っ越してきたユダヤ系イタリア人・グイド(ロベルト・ベニーニ)は、持ち前の陽気さで小学校教師のドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)と結婚。息子・ジョズエ(ジョルジオ・カンタリーニ)と3人での平和な暮らしが訪れるはずでした。
しかしユダヤ人に対する迫害の気色が強まり、ついに3人は強制収容所に送られてしまいます。母と離れ離れになって不安になるジョズエを、グイドは「これはゲームなんだ」と言って諭します。やがて彼らは、辛い収容所生活、強制労働、ナチスの撤退、逆らうことのできない大きな波に翻弄されていき…。
見どころ
第二次世界大戦中のユダヤ人迫害を背景にしています。カンヌ国際映画祭で審査員グランプリを受賞し、米国アカデミー賞では主演男優賞など受賞しました。他にもトロント国際映画祭では観客賞などを多数受賞しています。
グイド役を演じたロベルト・ベニーニは、本作で監督・脚本・主演を見事に務めました。彼の演技は、収容所での暗い生活とグイドの明るい性格を対比的に映し出し、より一層ユダヤ人迫害という歴史の重さを感じさせます。
英国王のスピーチ【2011年】
あらすじ
ヨーク公アルバート王子(コリン・ファース)は子どもの頃から吃音に悩まされ、1925年の大英帝国博覧会閉会式では大失敗をしてしまいます。アルバート王子の妻・エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、王子を説得して言語療法士ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)のもとへ連れていきます。
最初は確執があったものの徐々に打ち解けていく2人ですが、そんな時に兄であるデイヴィッド王子(ガイ・ピアース)が即位。結婚問題があり、兄王に代わって即位するようローグに説得されたアルバ―トは激怒し、2人は喧嘩別れをしてしまいます。結局兄王は退位し、アルバートはジョージ6世として即位しました。アルバートは再び吃音に悩まされ、またもローグのもとを訪れます。
見どころ
本作はアカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞を受賞し、その後も世界各地の映画賞を受賞しています。現英国女王のエリザベス2世もこの映画を見たそうで、好評だったとBBCが報じました。
注目すべきはコリン・ファースの演技。過去の王族の喋り方をマスターすることが難しいのは勿論ですが、やはり吃音を習得するのにかなり苦労したようです。世間の吃音に対する理解や関心が高まった、とアメリカで言語障害を研究している学者からも称賛された演技は、一見の価値ありでしょう。
草原の実験【2015年】
https://youtu.be/OT9p4Hv8Afc
(MIDSHIP)trailer YouTubeチャンネルより
あらすじ
少女ジーマ(エレーナ・アン)と父親トルガト(カリーム・パカチャコーフ)は、草原の中にポツンと建つ家に住んでいました。そんなジーマにマクシム(ダニーラ・ラッソマーヒン)とカイスィン(ナリンマン・ベクブラートフ=アレシェフ)は恋心を抱き、淡い三角関係が始まります。
部屋に貼ってある世界地図やスクラップを見ながら、何となく遠くの国に思いをはせる平和な日々。そんな中、突然家に入ってきた防護服を着た人々。雨の中、裸で外に出される父。平和な日々は突然に終わりを迎えるのです。
見どころ
ソ連時代のカザフスタン、セミパラチンスク核実験場で頻繁に行われていた核実験を背景にしています。カザフスタンで初めて核兵器の実験が行われたのは1949年、その際に近隣住民への告知はなく、1953年に実験が大規模になるまで住民が移住させられることもありませんでした。
「当時の人々が実験を見て、何を感じたのか、どう思ったのか、どう行動したのか、そういったことを考えながらこの映画を作りました」とアレクサンドル・コット監督は語っています。東京国際映画祭コンペティション部門で最優秀芸術貢献賞を受賞して話題になった、1つ1つのカットが本当に美しい無声映画です。
トゥルー・ヌーン―イワノビッチの村【2010年】
あらすじ
舞台は現・タジキスタンの小さな2つの村。ソ連の気象観測所に勤めており、村に赴任してきているロシア人・キリル(ユーリー・ナザーロフ)を含め、上の村人と下の村人は平和に暮らしていました。しかし2つの村の間に突如、鉄条網が引かれてしまいます。ソ連が崩壊したことをきっかけにロシアとタジキスタンの国境ができてしまったのです。
活発に行き来していた2つの村の住人は、勝手に決められてしまった国境に戸惑います。キリルの助手・ニルファ(ナシバ・シャリポワ)はもう一つの村に嫁に行くことになっていました。キリルと村人たちは何とか村の行き来ができないかと考えるのですが、ロシア軍による地雷の設置など、様々な困難が立ちはだかります。
見どころ
1991年のソ連崩壊を背景に、突然出現した国境に翻弄される人々を描いた作品です。ソ連崩壊後初めてのタジキスタン製作映画でもあり、監督であるノシール・サイードフ自身も、この映画が初めての長編映画となります。ロッテルダム国際映画祭公式セレクション作品に選ばれ、マラケシュ国際映画祭にも出展されました。
日本に住む私たちがイメージするのが難しい「陸の国境」がどういうものか、克明に知ることができます。ソ連崩壊という難しい時代の様々な問題が浮き彫りにされており、何より、衝撃のラストからは目を離せません。
戦艦ポチョムキン【1967年】
あらすじ
第一次ロシア革命の最中、戦艦ポチョムキンの乗組員たちが反乱を起こし船を乗っ取ります。発端は肉についていたウジ虫。水兵たちが訴えるも上層部に取り合ってもらえず、危うく1人の水兵が銃殺されそうになってしまいます。
一方、陸ではポチョムキン号の反乱に呼応するように、オデッサの階段でも市民たちが蜂起。多くの市民がコサック兵によって撃ち殺されてしまうのです…。
見どころ
1905年の戦艦ポチョムキンの反乱を描いた作品です。映画史上最も有名ともいえるであろう6分間「オデッサの階段」は、この映画で見ることができます。史実にはオデッサの階段における市民の虐殺事件は存在しませんが、このシーンがあまりにも有名すぎて、虐殺事件が存在したのだと思っている人もいるほどです。単に歴史を描いたということだけでなく、映画のワンシーンが新たな歴史認識を作ってしまったのです。
この後にも、多くの映画監督が「オデッサの階段」のシーンをオマージュしています。一見関係のない映像をつなぎ合わせて新たな意味を付与するというモンタージュ手法を確立したことでも有名です。
最後に
いかがでしたか?歴史フィクション映画といっても淡々と歴史の解説があるわけではなく、家族愛であったり、友情であったり、恋であったりと、様々なテーマが絡んでいます。歴史にあまり興味がないという人でも見やすい作品が多くありますよ。今まで全く興味がなかったという方も、この機会にぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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