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SF映画ファン必見の超大作!『クラウド アトラス』の魅力を徹底解剖

今回ご紹介する映画『クラウド アトラス』は、想像を絶するスケールのSF超大作です。原作は2004年に出版されたデビッド・ミッシェルの同名小説で、2012年に北米にて初公開、日本では2013年に公開されました。『マトリックス』シリーズで有名なラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟と、『ラン・ローラ・ラン(1999年)』のトム・ティクヴァ、3名が監督を担当しています。

時間や国家を超えて展開される壮大な物語であるため、映画化は困難と考えられていましたが、構想に4年、撮影に60日という時間をかけて製作された本作は先例のない野心作として高い評価を受けました。本記事ではあらすじから細部まで、その魅力を余すところなくお伝えしていきます。

『クラウド アトラス』あらすじ

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隻眼の老人ザックリー(トム・ハンクス)は、時空を超えて6つの時代を経験してきたという自身の魂の記憶から、それぞれの体験をストーリーテリングしていきます。

1849年の記憶

米国のユーイング(ジム・スタージェス)と医師グース(トム・ハンクス)は奴隷貿易契約を済ませた帰国航海中に、脱走した奴隷オトゥア(デヴィッド・ジャーシー)に懇願され、助ける運びとなります。

1931年の記憶

英国でユーイングの航海日誌を愛読しながら自身の交響曲を生み出そうと励む音楽家志望のフロビシャー(ベン・ウィショー)は、ある事情から師事していた作曲家エアズ(ジム・ブロードベント)を銃で撃ち、逃亡するのでした。

1973年の記憶

米国で物理学者シックススミス(ジェームズ・ダーシー)は参加していた原子力発電所計画の欠陥をジャーナリストのルイサ・レイ(ハル・ベリー)に打ち明けます。シックススミスは原発事故を望む勢力に殺され、ルイサも命を狙われますが…。

2012年の記憶

原発の話を描いた『ルイサ・レイ事件』の小説を預かる英国の編集者カヴェンディッシュ(ジム・ブロードベント)は、とある作家ダーモット(トム・ハンクス)が起こした事件によって大儲けしますが、ダーモット側からの恐喝を受け、逃れる場所を探すうちに騙されて老人介護施設に監禁されてしまいます。

2144年の記憶

科学的に生み出された合成人間たちが純粋な人類に支配される社会で、合成人間のソンミ451(ペ・ドゥナ)は映画『カヴェンディッシュの大脱走』を見て自らの境遇に疑問を持ちます。その後革命軍によって救出された彼女は、合成人間に関しての衝撃的な真実を知ることに。

2321年の記憶

文明の崩壊した地球で、とある島で暮らすザックリーは過去の魂の記憶を思い起こし、巫女アベス(スーザン・サランドン)から得た啓示に従って、高い技術力を持つプレシエント族の女性メロエム(ハル・ベリー)を「悪魔の山」と呼ばれる場所へ案内します。



『クラウド アトラス』の魅力

魅力①:豪華キャストの迫真の演技が楽しめる!

本作品は1850年から2321年まで5世紀に渡る長い時間軸の中、6つのストーリーを通して人間の魂の交流を描きます。主人公は、トム・ハンクス演じる6人の異なる人物たちということになっていますが、6つのストーリーが絶妙なタイミングで場面転換しつつ同時進行していくので、まるで登場人物全員が主人公のようにも思えます。

俳優陣が演じるのは、それぞれ同じ魂を持ちながらも時代と場所によって人種・性別・性格・外見が異なる6人。トム・ハンクスが演じた役柄を例に取ると、まず物語が始まる1849年の南太平洋諸島では医師のヘンリー・グース。1936年のスコットランド・エディンバラでは安ホテルの支配人。1973年のサンフランシスコでは原子力発電所で働く物理学者アイザック・スミス。そして2321年の文明崩壊後の地球では、ストーリーテラーでもある島暮らしのザックリーという男性。時代によって人物像はバラバラなのです。

本作の魅力の1つは、トム・ハンクスを始めハル・ベリー、ヒュー・グラント、スーザン・サランドンなど、豪華キャストの堂に入った演技が楽しめること。取り分け、ロマンティック・ラブコメディ作品への出演が圧倒的に多いヒュー・グラントは、普段と全く違う色味の演技に相当な熱意を傾けています。

また、甘いマスクで観客を虜にする英国俳優ジム・スタージェスや、『007 スカイフォール(2012年)』のQ役で話題になったベン・ウィショー、韓国出身で邦画への出演経験もあるぺ・ドゥナなど、個性的な顔ぶれの登場も作品のポテンシャルを高めている一因です。

魅力②:最先端の映像技術を駆使した演出

最先端の映像技術を用いた演出も本作の魅力。6つのストーリーには1850年から2321年までという時間差が存在しますが、1本の映画の中で500年の開きをリアルに表現しようとした製作陣の努力は、見事に実を結んでいます。

圧巻なのは、2144年の国際都市、ネオ・ソウルを舞台にしたストーリーです。近未来的佇まいとなったソウルの街。そこに生きるソンミ451らクローン人間たちと、彼女たちが仕えるリー師(ヒュー・グラント)の在り方は、まさに一昔前の独裁者たちが牛耳る社会そのもの。コンピューター・グラフィックスによる特殊効果を駆使して作り上げられたネオ・ソウルの街の様子と、後退的・排他的社会の有り様が、鮮やかなコントラストとなって映し出されています。

魅力③:未來への希望を抱かせる、感動のストーリー

6つの物語を通して同じ魂を持つ人々。姿を変えながらも時を超えて再び出会う魂たちの共演は、話が進むにつれ観る者の心をじんわり温めてくれます。

やむを得ない事情で離れ離れになっても未来で再会できたり、悲しい別れを迎えても過去には幸せに暮らしていた事実があったり。登場人物が複雑な縁でつながっている様子は、将来に不安を抱えがちな人の心に微かな光を灯すでしょう。

監督の1人であるラナ・ウォシャウスキーは、本作で描かれた輪廻転生の様子をインタビューで次のように語っています。

“輪廻転生にはいろいろな解釈があるけど、原作がもっている思想、そして自分たちの描くキャラクターが信じることを、私たちも信じようと思ったの。1人の精神が、他の人の精神へと生まれ変わったり、自分の行動が遠い未来に生まれた自分に影響を及ぼす、その繰り返しで世界は成り立っていると考えたのよ”
(引用:構想4年、撮影60日ーーラナ&アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクバの野心作

トム・ハンクスとハル・ベリー、ぺ・ドゥナとジム・スタージェスの2組が時をまたぎ想いを通わせる運命は、作品の要とも言えます。しかし、実はそれらのエピソードは原作には存在せず、映画製作陣によって加えられたもの。時空を超えた愛という魂の交歓は、作品に並々ならぬ奥行きと感動を加えているので、それらが原作に描かれていないという事実は幾分、衝撃的に思えるかもしれません。原作が意味するものの更に先を読み取ろうとした、監督陣の熱意のたまものと言えるでしょう。

最後に

これまでの映画界の常識を覆すような冒険的映画『クラウド アトラス』。初めて本作を鑑賞する人は、鑑賞後まるで魂が奪われたかのように呆然としてしまうかもしれません。1度観ただけでは全体像が掴みきれない部分もあるかと思うので、数回繰り返して鑑賞することをおすすめします。

映画を十分堪能した後は原作の読破に挑んでみるのも良いかもしれません。2004年にイギリスで出版された原作は、映画の日本公開(2013年3月15日)に先駆け、2013年1月23日に邦訳版が刊行されました。活字だと流れも整理しやすいでしょうから、こちらもぜひお楽しみください。