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名作『ローマの休日』における登場人物の髪型と心情の変化

モノクロでありながら鮮明な印象を与え、世代を超えて楽しませてくれる恋愛映画『ローマの休日(1954年)』。「観光地としてのローマ」、「英語学習にもなる映画」、さらには「脚本家ダルトン・トランボ」など、有名だからこそ分析される機会も多く、ある意味手垢のついた作品とも言えるかもしれません。

『ローマの休日』の印象的なシーンとして、「アン王女の大胆な美容院でのカット」があります。髪は女の命とも言われるほど重要な要素ですよね。今回は『ローマの休日』における髪型の変化に焦点を当てて、作品を考察していきたいと思います。

『ローマの休日』作品概要

ローマの休日
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まずはあらすじをチェック!

「ローマの休日」は銀幕の妖精・オードリーヘップバーンの魅力がいかんなく発揮されており、アカデミー賞最優秀賞主演女優賞にふさわしい映画です。
また、ジョルジュ・オーリックの音楽が白黒の映像に輝きを与えています。

ヨーロッパで最古を誇る某国のアン王女(オードリー・ヘプバーン)が堅苦しい行事に辟易し、夜中にこっそりお城を抜け出します。アンは初めて見る町の光景に好奇心を駆り立てられ、天真爛漫に振舞います。

ふとしたことでアンと知り合うことになるのが、新聞記者のジョー(グレゴリー・ペック)です。そして、ジョーはアンが某国の王女と気付きますが、特ダネになると思い身分を隠します。ジョーは友達のカメラマンを呼び、気付かれないようにアンの無邪気な行動をカメラで撮りまくります。

いつしか、お互いに愛を抱くようになりますが、アンは自分の生きる世界を思い返し、帰国の前日に涙ながらジョーに別れを告げ、お城に帰っていきます。そして、最後の感動のシーンになります。

アンは帰国の会見の場で、大勢の新聞記者の中にジョーがいることに気付き、初めてジョーが新聞記者だと知ります。
新聞記者からの質問に対し、アンは『国民のみなさんと強い絆ができました』と答えます。すると、最前列にいたジョーがアンに話しかけます。『その絆が断たれることは決してないでしょう』。そして、隠し撮りした写真を全てアンに渡し、記事にしないことを伝えます。

新聞記者からどの国が一番印象に残っていますか聞かれ、アンは優しく答えます。『ローマです』。

見どころ

ローマの休日の見どころは、王国の色が濃く残る時代の王女ではあっても、若い乙女であるアンが自由気ままに振舞う姿です。
長い髪をバッサリ切ってショートカットにする、スペイン広場でジェラードを食べる、ジョーと一緒にスクーターでローマを走り回る姿はほほえましく映ります。また、アンのファッションも見逃せません。



『ローマの休日』における髪型が持つ意味

アン王女(カット前)

ロングヘアーで色素は濃く髪質は柔らかそうですが、少しクセがあるようにも感じます。アップスタイルでも、髪を下ろしていても額を出していますが、なぜなのでしょうか。

顔が隠れないことは、見る人に清潔感や明るい印象を与えます。例えばキャビンアテンダントも額を出す髪型ですが、人に見られる職業ですよね。公式な場で人々に見られることの多いアン王女も、額を出して清潔感や明るさを演出することが暗黙に規則づけられていたのかもしれません。

また、女性の長い髪は様々な欠点を隠すという意味の、「髪の長きは七難隠す」ということわざからもうかがい知れるとおり、そもそもロングヘアー自体に女性らしい印象があります。一方男性は髪を長く伸ばす文化はあまりないため、髪を伸ばしたり、ヘアアレンジを工夫したりというのも女性に主流の文化であるようにも感じられます。

そう考えると、ロングヘアーのアン王女に、おしとやかでお嬢様らしく受動的といった女性的なイメージも見受けられるのではないでしょうか。

アン王女(カット後)

髪をカットした後のアン王女は、短めの前髪のおかげで際立つ眉の凛々しさと、強い意志を感じさせます。

ショートカットのアン王女は、快活そうで生命力があり能動的といった中性的なイメージです。男性的なイメージと感じないのは、アン王女の美しく女性らしい顔立ちと、品位のある立ち居振る舞いのためでしょう。女性的なイメージからは、いくぶん遠ざかった髪型ですが、むしろアン王女自身の顔立ちの美しさがより強調されて、非常に魅力的です。

オードリー・ヘプバーンのこのショートカットヘアーは、『ローマの休日』を観た当時の日本の女性たちの間でブームにもなりました。

前髪を毛先を揃えたストレートバング、サイドの毛はバックのほうにぴったりと流し、バックはえり足いっぱいにカットする。1954年夏に流行したこの髪型は、オードリー・ヘプバーンの髪型をまねた事からヘップバーンカットと呼ばれました。

ジョー・ブラッドレー

短髪をきっちりセットしています。色素は濃く、髪質は硬そうで直毛です。ひげはしっかり剃られ、眉毛が濃く、清潔感のある印象を受けます。

ジョーの髪型からは、いかにも仕事が出来そうな匂いがします。新聞記者という職業柄、悪目立ちするような髪型ではスクープはとれないということなのでしょうか。没個性的ともとることもできますが、身だしなみがきちんと整えられていることが伝わる髪型なので、万人受けするはずです。

さらに、あまり主張のない控えめな髪型だからこそ、かえってアン王女と並んだ時に彼女の美しさが引き立ちます。

エディ・アルバート(アービング・ラドビッチ)

ジョーより長めの短髪です。色素は薄く、柔らかなウェーブヘアー。口ひげ・あごひげがたっぷりで、眉毛は薄く親しみやすい印象ですね。エディの髪型は、ジョーとは対照的に全体的にもっさりしています。

2人の髪型の比較から、長めの髪やひげを蓄えているエディより、ジョーのほうがきっちり身だしなみを整えていることが分かります。ジョーは神経質、エディはおおらかな性格を匂わせますね。ジョーは、細やかに情報を収集して、一方エディはおおらかにジョーを支えている名コンビと言えるかもしれません。

髪を切って生じたアン王女の変化

髪を切ってアン王女は身も心も軽くなりましたが、具体的にどのような変化があったのでしょうか。

身体的変化

髪を切ると、シャンプードライヤーなどのお手入れが一気に楽になりますよね。髪の重さが軽くなったことは、アン王女の肩の荷(規範通りに過ごすことの重圧など)が一時的に降りたことを暗示しているのかも知れません。

映画では、気温の変化の影響もあるのでしょうが、注目したいのは髪を切る前後での服の着こなし方。朝方、首元までボタンをきっちり留めて長袖のブラウスを着ているのですが、髪を切る前にはほんの少しだけ腕まくりをしています。そして、切った後は徐々に二の腕や、首元をすっきりと露出させていくのです。

心理的変化

イメージチェンジをすることで、新しい自分になったような清々しさを感じているはず。自らの意思で、髪型を選ぶ、ということもお嬢様のアン王女にとっては、大きな意味のあることだったのかもしれないですね。

美容院の前でショートヘアーの髪型をながめ、美容院を済ませたお客さんのショートカットに好感を持ち、しかし緊張した面持ちでカットに挑戦したアン王女。窓ガラスに映るショートヘアーになった自分の髪型に喜ぶという心理的変化にも共感できる人は多いのではないでしょうか。

ヘアカットが『ローマの休日』にもたらす意味とは?

アン王女のヘアカットなくして『ローマの休日』は成立しないといっても過言ではないほど、髪を切ることは重要なシーンです。アン王女は、短く髪を切ることで「王女」から「普通の女性」に自分を切り替えます。

自分の意識を切り替える瞬間は誰にでもあり、非常に大切な変化です。ズルズルと前の出来事を引きずっていたら、せっかくの「今」この瞬間に集中できないからです。

『ローマの休日』が多くの人の憧れる素晴らしい休日の映画となった一因として、アン王女が「王女であることを引きずっていないこと」があげられるでしょう。前向きに、その瞬間を精一杯楽しむ姿勢。アン王女は、そうした心の在り方の大切さを私たちに教えてくれますね。

最後に

「外見は一番外側の内面」という言葉もあるように、外見と内面は切っても切れない関係。手っ取り早く、イメージチェンジを図るには髪を整えるという手段は有効ではないでしょうか。

アン王女は自分の意思で髪を短く切りましたが、多かれ少なかれ外見には自らの意思や性格といった内面が反映されています。だからこそ人の数だけ、様々なオシャレの仕方にあふれているのです。

髪の他にもドレスやスカート、化粧の仕方なども素敵で参考になるのでオシャレのお手本としても目が離せませんね。自分自身に、変化をもたらすことや、意識を切り替えていくことの大切さ。『ローマの休日』を鑑賞し、美しい髪や装いを堪能して心をリフレッシュさせることが、きっとあなたにより良い変化をもたらすと信じています。