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【ワンハリ】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を5つの観点から詳しく解説【ネタバレ】

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8月30日に公開された、クエンティン・タランティーノ監督最新作の映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(以下『ワンハリ』)。

レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットという2人の大物俳優が初共演したことで話題となりましたが、それだけでなく若い頃をハリウッドで過ごしたタランティーノの「ハリウッドへのラブレター」として愛を注いだ作品となっています。

本作の構想の中心となっているのは、ハリウッドを震撼させた「シャロン・テート殺害事件」です。『ワンハリ』の舞台となる1969年、ハリウッドではいったい何が起こっていたのでしょうか。

この記事では映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』について、5つの観点に分けて詳しくご紹介します!ネタバレが含まれますので、映画鑑賞後にご覧ください。

3人の主要人物のモデルは誰?

『ワンハリ』には、3人の主要人物が登場します。落ち目のスター俳優、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)、リックのスタントマンであるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)、注目を集める若手女優、シャロン・テート(マーゴット・ロビー)です。

シャロン以外は実在の人物ではなく、タランティーノによるオリジナルの登場人物となっています。

リック・ダルトン

リック・ダルトンは、1950~70年代に、優れた素質を持ちながら時代の波に乗り切れず落ちぶれてしまったと言われる実在のスターたちからインスピレーションを得て作り出された人物です。

TVドラマシリーズ『ブロンコ』のタイ・ハーディン、『サンセット77』のエド・バーンズ、『ルート66』のジョージ・マハリス、『西部二人組』のピート・デュエルなど、数多くの俳優たちを元に創造されています。

いずれの人物も「スティーヴ・マックィーンになれたかもしれないのに、TVから映画への移行がうまくできなかった」とタランティーノは語っています。

クリフ・ブース

戦役帰りのスタントマンであるクリフ・ブースのモデルとなっている人物は、1960年代にスタントマンとして活躍したハル・ニーダムです。

ニーダムは朝鮮戦争での戦役後に、TV西部劇のスタントマンとして注目された後、『西部開拓史』(1962)などの映画に出演し、1960年代のスタントマンのトップの座に上り詰めました。名優バート・レイノルズと親交を深め、『トランザム7000』(1977)、『キャノンボール』(1981)などのヒット作で監督・主演コンビを務めたことでも有名です。

シャロン・テート

シャロン・テートは言うまでもなく実在の人物で、『ワンハリ』のキーパーソンともいえる人物です。本作ではシャロンには台詞がほとんどなく、作中における役割やドラマといったものも特にありません。そもそも本作は「シャロン・テート殺害事件」周辺のハリウッドを構想としている作品であり、事件が起こる時間までのカウントダウンを示す象徴的存在としての意味合いが強く表れています。



マンソン・ファミリーとは?

「シャロン・テート殺害事件」の3人の実行犯であるテックス・ワトソン、パトリシア・クレンウィンケル、スーザン・アトキンス(見張り役だったリンダ・カサビアンは犯行途中で恐れをなして逃亡したとのこと)です。

彼らに犯行の指示を出した首謀者であるチャールズ・マンソンという男の名はあまりに有名ですが、『ワンハリ』ではマンソンの姿はチラリとしか見ることができません。

「なぜシャロンやその友人であるセレブたちが残虐な方法で殺されなければならなかったのか?」事件当時はその理由や動機について様々な憶測が飛び交い、ハリウッドは恐怖のどん底に叩き落とされました。事件のすぐあとに、容疑者として「マンソン・ファミリー」の存在が浮かび上がります。

「マンソン・ファミリー」の実態とは、「ラブ&ピース」を訴えるヒッピー集団の皮を被ってテロ行為を行う殺人カルトでした。もともとリーダーのマンソンはミュージシャン志望で、自作曲をハリウッドに持ち込むなどしていましたが、次第に女性信者らの信奉を集めるようになり、最終的には殺人行為すら辞さないカルト集団へと変化を遂げていたのです。

当時ポランスキー邸にいたシャロンとその友人が犠牲者として選ばれたのは、怨恨など何か動機があったというわけでもなく、本当にただの偶然でした。「シャロン・テート殺害事件」の原因や動機などに関する人々の憶測はただの妄想に終わりましたが、それでも平和と愛を掲げ、セックスとドラッグを愛する無害なヒッピー集団を装った殺人カルト集団の存在が明るみになったことは、当時のアメリカにとって大きな衝撃を与えることとなりました。

「シャロン・テート殺害事件」がハリウッドにもたらしたものとは

1960年代、自主倫理規制コードに縛られたハリウッド映画は時代遅れのものとなりつつありました。それまでのハリウッド映画では拳銃で撃たれても一滴たりとも血を流さないし、裸やセックス描写はほとんど描かれることはありませんでした。

しかしながら、『ワンハリ』の物語の舞台となる少し前の1968年にハリウッドの自主倫理規制コードが撤廃されたことにより、暴力・セックス・反権力を生々しく描く「アメリカン・ニュー・シネマ」文化が誕生しつつありました。

この「ニュー・シネマ」運動により、それまでの夢の世界のようなハリウッド映画を根底から覆すような作品が数多く生み出される過渡期であった1969年に、突如もたらされた恐ろしい惨劇。「シャロン・テート殺害事件」は、夢の世界にあったハリウッドを瞬く間に現実世界に引き戻し、厳しい現実を突き付ける「ニュー・シネマ」を本格的に台頭させるきっかけとなったのです。

タランティーノは過去作品でも歴史改変していた!

タランティーノ監督作には「歴史改変もの」が存在します。第二次大戦を描いた『イングロリアス・バスターズ』(2009)、黒人奴隷制の時代を描いた『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)の2作がこれに当たります。

『イングロリアス・バスターズ』ではヒトラーを滅多撃ちにするうえユダヤ人の生き残りがナチスの幹部を燃やし尽くしますし、『ジャンゴ 繋がれざる者』では黒人のガンマンが農園を経営する白人の豪邸で破壊の限りを尽くすなど、歴史上の「悪役」に対しタランティーノは容赦ない「制裁」を加えてきました。ちなみに、この2つの作品にはピットとディカプリオがそれぞれ出演しています。

本作『ワンハリ』でもタランティーノはシャロンを惨殺した犯人たちに「お仕置き」をし、ハリウッドの夢の象徴であったシャロンを失うこともなく、『イングロリアス~』や『ジャンゴ~』と同様スカッと爽快なハッピーエンドの結末を迎えるのです。

1960年代の思い出がたくさん!作中のトリビアを一挙紹介

『ワンハリ』の作中には、舞台となる1960年代終盤に実際に流行した音楽・映画・TVドラマ・俳優など、たくさんのものが登場します。

例えば実在の人物として、ロマン・ポランスキーとシャロン・テート夫妻が作中の重要人物とされる他、シャロンの出演作『サイレンサー第4弾/破壊部隊』(1968)で武術指導を行うブルース・リー、パーティーシーンに登場するスティーヴ・マックィーン、マックィーンのヘアメイクを多数手がけたシャロンの元婚約者でもあるジェイ・セブリング、TVドラマ『対決ランサー牧場』でリックと共演したというウェイン・マウンダーなど、多数の人物が登場します。

名作映画『大脱走』(1963)はマックィーンの代わりにリックが主演を務めるはずだったとして紹介され、マックィーンの出演部分をリックの姿に差し替えるパロディが登場するほか、シャロンがヒロインを務める『サイレンサー第4弾/破壊部隊』の映像も登場します。

『サイレンサー~』の抜粋部分ではマーゴット・ロビーが演じるものではなく実際のシャロンの姿を見ることができます。また、『FBIアメリカ連邦警察』『グリーン・ホーネット』といった1960年代後半に人気を集めたアメリカのTVドラマも登場します。

バックで流れる楽曲では、映画『卒業』(1967)の主題歌として書き下ろされたサイモン&ガーファンクルのヒット曲『ミセス・ロビンソン』、1965年にリリースされ大ヒットを収めたママス&パパスのデビューシングル『カリフォルニア・ドリーミング』、1960年代後半に放送されたTV版『バットマン』のテーマなど、作中で使用されている楽曲も味わい深い選曲となっています。