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善悪の境界を問うクライム映画!映画が描くシリアルキラーはダークヒーローか?

サスペンスやスリラー映画に登場するシリアルキラーは、実在でも架空の人物でもどこか「サイコパス」な要素を持っていると思いませんか?もともとサイコパスとは、シリアルキラーのような反社会的人格を説明するための概念です。

そんなサイコパスなシリアルキラーを映画の中で見ながら怖いと思う一方で、なぜか憧れにも似た感情がわいてくることはありませんか?それはきっと、サイコパスが持つ"ダークヒーローになりうる要素"から来ていると思うのです。

今回はシリアルキラーが主人公として登場するクライムスリラー作品を取り上げ、各キャラクターの特徴から、なぜ人は善悪を超えてダークヒーローに魅了されるのかを考察してみたいと思います。

不能犯【2018年】


showgatetrailer YouTubeチャンネルより

概要

『不能犯』は「グランドジャンプ」連載の同名青年コミックを原作とした映画。ホラー映画『貞子vs伽椰子(2016年)』の白石晃士が監督を務め、松坂桃李と沢尻エリカが主演しています。劇場版に先駆けてdTVのオリジナルドラマも全5話配信され、大きな話題を呼びました。

「不能犯」とは、思い込みやマインドコントロールで殺人を起こす、実際には実現不可能な犯罪行為のこと。例えば藁人形で呪い殺すような立証不可能な犯罪を指します。明らかに目的が殺人であるにも関わらず、罪には問えないのです。

あらすじ

街で起こる連続変死事件の現場には必ず"黒いスーツの男"が現れ、事件を追う多田刑事(沢尻エリカ)はその男・宇相吹正(松坂桃李)がすべての事件に関与していると疑うようになります。しかし宇相吹は「不能犯」であり、犯行を立証することができず逮捕することもできません。そんな中、宇相吹は多田のことだけはコントロールできないと判明。2人は互いの"正義"をかけて対峙することになります。

シリアルキラー①宇相吹正(うそぶきただし)

映画『不能犯』公式Instagramアカウント(@funohan_movie)より

ある電話ボックスに「殺してほしい理由」と「連絡先」を書いた紙を貼っておくと、金も取らずに引き受けてくれるSNSで話題のダークヒーロー。赤く光る瞳であらゆる人間をマインドコントロールでき、彼の瞳を見た者はありもしない幻覚を信じ込み悶え死ぬことになります。

気づかないうちに背後にヌラリと立ち、ニタァと笑う様が印象的。依頼者に対してもターゲットに対しても、一切の妥協と同情がないのが特徴です。「…愚かだね、人間は」と呟いては、人間の弱さを暴き出します。

原作でも正体は明かされておらず、映画での唐突な出現の仕方からは悪魔とも思えるほど人間離れしています。嘘が大嫌いで正義の塊である多田とは相反しながらも表裏一体な関係。多田が宇相吹を止めることができるのかが、本作の重要なテーマです。

心の闇をえぐる赤い瞳

宇相吹が暴き出す社会や人間の心の闇は、誰もが持っている弱い部分です。しかし、殺人を依頼した者を必ず破滅に追いやることを考えると、宇相吹はそういう心の持ち主こそが死に値すると考えているのかもしれません。

映画館のサラウンドで共鳴する「死ね!」、「あんなやつ死ねばいいのに」などの声からは、一番恐怖を感じます。宇相吹はそんな人間を「愚かだ」と言っているのでしょう。心の闇を正せるのは正義か悪か、多田が宇相吹を「希望で止める」と言っていましたが、それすら嘘くさく感じてしまったのは、すでにマインドコントロールされていたからかもしれません。



デスノート【2006年】

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概要

「週刊少年ジャンプ」に連載され、少年誌の概念を覆したコミック『DEATH NOTE』を原作とした映画で、2006年6月と11月に2部作として連続公開されたことも話題となりました。

主演は藤原竜也と松山ケンイチ。その後松山ケンイチ演じる探偵Lを主人公としたスピンオフ映画『L change the World(2008年)』や、10年後の世界を描いた続編『デスノート Light up the NEW world(2016年)』も生み出されました。

死神が人間界に落とした"デスノート"は殺したい人間の名と死因を書き込めば、その通りになるというノート。絶対的正義感の持ち主である主人公の夜神月は、「世の中にはびこる悪=犯罪者たちを葬る」ためにこのノートを使うことを決心します。

あらすじ

ある日、頭脳明晰なエリート大学生の夜神月(藤原竜也)は死神が落とした「デスノート」を拾い、死神リュークが見えるようになります。半信半疑でノートに名前を書くと、思うままに人を殺せることを知ってしまいます。日ごろから法の裁きの限界を感じていた月は、このノートを使えば犯罪者のいない理想の世界を築けると感じ、次々と犯罪者たちを葬り始めます。

立て続けに犯罪者が不自然死する中、世間は誰かが何らかの方法で葬っていると気付き始め、その存在を「キラ」と呼び好感を持つようになります。しかし警察はキラを連続殺人犯として捜査し、ICPOからは世界的な名探偵L(松山ケンイチ)が派遣されることに。キラによる連続殺人事件の捜査の中で、月とLの頭脳戦が繰り広げられます。

シリアルキラー②夜神月(やがみらいと)

映画『デスノート LNW』公式Instagramアカウント(@Deathnote_2016)より

真面目で正義感の強い青年であり、警察幹部の父を持つサラブレッド。容姿端麗、頭脳明晰、社交性も抜群、おまけに行動力もあってリーダータイプ。恐ろしいまでの優秀さです。しかし、正義の度も過ぎると悪になり得るため、実は表裏一体。少しのきっかけで反転してしまうのです。月にとって、そのきっかけがデスノートでした。

夜神月は、サイコパスの主な特徴を完璧に備えています。社交的な嘘つきで、自己を正当化し、巧みに他者を利用します。しかし月はなぜか擁護したくなるほど魅力的で、彼を神として崇拝する信者すら出現。ところが、そんな信者たちを悪びれもせずに利用するなど共感性の欠如を見せています。

その月を止める存在として重要なキャラクターがL。出生も国籍も不明で見た目は怪しいですが、頭脳と行動力は月に劣らない世界一の探偵です。この2人がこの作品の善悪の対比を担っています。

醜く歪んでいく正義感

デスノートを使い始めた当初は、月の中にも確固たる正義が存在していて、心から世の中を良くしたいと考えていました。しかしキラ信者が出現し崇拝され始めると、次第に彼の中の正義は「自己正当化された歪んだ正義」に変貌していきます。

そして"新世界の神"を自称し、自分が創り出す新世界こそが正義だと言い張るように。まさに、独善的で歪んだ正義感。善を行おうとして悪の力を借りている時点で、それはすでに善ではないのです。

どれほど優秀で真面目な人間でも、善悪の境界を軽く超えてしまうことがあるというのは『デスノート』から学べる重大なポイント。しかしそれを魅力的なダークヒーローが行ったら、心を操られてしまうかもしれませんね。

ハンニバル【2001年】

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概要

トマス・ハリスが生み出した架空のダークヒーロー、ハンニバル・レクター。サイコパスやプロファイルなどの概念を世に広めたともいえる映画『羊たちの沈黙(1991年)』で、強烈な印象を残しました。

『ハンニバル』はその10年後を描いた続編であり、レクターにフォーカスした作品です。その後もハンニバル・シリーズは『レッド・ドラゴン(2003年)』、『ハンニバル・ライジング(2007年)』と続き、2013年にはマッツ・ミケルセンがハンニバルを演じたテレビドラマも製作されました。

ハンニバル・レクターといえばアンソニー・ホプキンス。猟奇的殺人を繰り返すシリアルキラーをダークで洗練された不思議な魅力で演じました。若き日のハンニバルを『ハンニバル・ライジング』で演じた、ギャスパー・ウリエルやマッツ・ミケルセンも実に魅力的でした。

あらすじ

連続猟奇殺人事件「バッファロー・ビル事件」解決から10年。FBI特別捜査官クラリス・スターリング(ジュリアン・ムーア)は、麻薬組織の捜査で多数の犠牲者を出しバッシングを受けて停職の危機にありました。一方、脱獄したハンニバル・レクター(アンソニー・ホプキンス)の行方を追う大富豪メイスン・ヴァージャー(ゲイリー・オールドマン)は、ハンニバルに対する憎悪から残忍な復讐計画を練っていました。

ヴァージャーは司法省のクレンドラー(レイ・リオッタ)を利用し、クラリスをハンニバル捜査に引き込みます。その頃、レクターはフィレンツェのカッポーニ宮で司書になりすまして潜伏していました。クラリスはレクターを誘き出すための罠として、ヴァージャーに利用されることになります。

シリアルキラー③ハンニバル・レクター

Metro-Goldwyn-Mayer公式Instagramアカウント(@mgm_studios)より

精神科医でありながら猟奇殺人犯として追われる身となった、通称「人食いハンニバル」。高い知識と教養を備えた名門貴族の末裔という設定で、第2次世界大戦中に経験した妹の死と人食体験が後の人格形成に影響を及ぼしたとされています。

アメリカに渡ってから精神科医として開業。この頃から自分の患者を殺害しては食べるという猟奇的なシリアルキラーになっていくのでした。巧みな話術で人心を掌握する精神科医として描かれています。

1970年代に犯した連続殺人で逮捕され、裁判の結果、精神異常犯罪者診療所で終身拘束されることが決定。そして1983年「バッファロー・ビル事件」が発生し、クラリスへの捜査協力を獄中から行うことになりました。

患者や被害者など彼を取り巻く人物に関心がないように見えるレクターですが、クラリスにだけは執着。『ハンニバル』ではクラリスにキスをするシーンもあり、終始クラリスには紳士的な態度で接しているのです。しかしクラリスは終始レクター逮捕に専念。映画版では、原作とは違うラストが用意されており、善悪の境界をどうしても築きたかったのだと感じられます。

野放しの無礼な奴らを食らう

レクターが収監されていた施設の職員だったバーニー(フランキー・R・フェイソン)が、レクターの言葉をクラリスに教える場面があります。「食える時は無礼な奴を食うんだ」と。バーニーはレクターに敬意を払っていたので、狙われることもなかったと言います。

確かにレクターは、人として敬意を払えない相手には容赦なく、自分に敬意を払い「無礼でない」人間にはそれなりの礼儀を持って接しています。多くの上流階級の患者を見てきたレクターならではの見解があるようです。人の資質は身分が決めるものではないということでしょうか。

それが確認できるシーンとして、ヴァージャーに対して醜くなった今の方が好きだと語ったり、懸賞金欲しさにレクターの情報を売ったパッツィ刑事(ジャンカルロ・ジャンニーニ)を躊躇もせず縛り首するなど。クラリスを侮辱し続けるクレンドラーに対しては、正視できないほど残酷な手段で報復しました。

ナチュラル・ボーン・キラーズ【1995年】

ナチュラル・ボーン・キラーズ
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概要

社会派監督と言われるオリバー・ストーンが痛烈なマスコミ批判を行ったクライム・バイオレンスで、クエンティン・タランティーノが原案を手がけたことでも有名な作品です。公開当時過激な内容が問題視され、年齢制限で公開されたり、上映禁止になったことも。

しかしテーマはバイオレンスを娯楽として提供しているマスコミへの風刺であり、それを何の気なしに無責任に消費している観客へ向けた警告でもありました。モノクロを効果的に使用し、アニメーションを合成したり、ニュース映像や映画、テレビのシーンをサブリミナル的に挿入したりと、実験的な表現手法が話題になりました。

あらすじ

ハイウェイ沿いのレストランに現れた1組のカップルのミッキー(ウディ・ハレルソン)とマロリー(ジュリエット・ルイス)は、居合わせた客たちを突然惨殺。そして唯一の生存者に「ミッキーとマロリーがやったと言え」と言い残し去って行きます。

この殺人カップルに興味を抱いたのが他ならぬマスメディア。52人を殺してなお逃亡を続ける2人は、マスコミの報道合戦によっていつの間にか反体制を支持する若者から人気を集めるようになっていきます。

しかし、スキャグネッティ刑事(トム・サイズモア)によってついに逮捕され、刑務所に送られた2人。そこへ視聴率アップを狙うテレビキャスターのウェイン・ゲール(ロバート・ダウニー・Jr.)が、獄中独占インタビューを生中継で行うことが決まります。

シリアルキラー④ミッキー&マロリー

マロリーの父親から性的虐待を受けていたという身の上が、古き良き50年代のホームドラマ風に紹介されていくところはかなりアイロニカル。ミッキーはそんなマロリーの家に肉屋の配達人として登場。2人はお互いに一目惚れし、そこから両親を殺して逃亡するという急展開を迎えます。

マスコミに祭り上げられたダークヒーローではありますが、獄中インタビューではミッキーも応戦します。殺人こそが純粋な行為だと発言し、マスメディアに対する批判を行うのです。そもそも彼らをヒーローに仕立て上げたのは、無責任な視聴者でありマスメディアなのだから批判されて当然ですが。

取り上げてきた他の作品との決定的な違いは、善悪の明確な対比がないこと。この作品には一切"正義"が存在しないのです。登場人物はみな腹黒い権力者ばかり。その中で純粋に殺人を続けるミッキーたちこそが、実は正義なのではと錯覚してしまいます。

生まれつきの殺人者

タイトルの通り、ミッキーとマロリーは「生まれつきの殺人者」で、欲望にまみれて闇に堕ちた人間たちを淘汰するために生み出されたダークヒーローなのではないでしょうか。よく爆発的に拡散して多くの死者や感染者を出すウイルスを「殺人ウイルス」などと呼ぶこともありますが、これと同様にミッキーたちは社会の悪環境がが育てた「ナチュラル・ボーン・キラー」なのかもしれません。

そういった意味で、この作品は非常に寓話性の高い物語といっていいでしょう。善悪の境界が薄っすらとも見えないのは、そんな固定概念を初めから完全に破壊しているからです。

【まとめ】人類の暗黒面を担うサイコパス

先ほど『ナチュラル・ボーン・キラーズ』で触れた、自然が人類の淘汰を目的として「殺人ウイルス」を生み出すというのはそんなに突拍子もない話でもありません。脳科学者の中野信子著「サイコパス」によれば、「サイコパスが人類を進化させた」のではないかという説があります。

危険を恐れない冒険家や未開の地を切り開いた開拓者、戦場でためらいなく敵を撃てる兵士など、そんな強心臓の持ち主こそ人類の繁栄を歴史の裏で支えたサイコパスだったかもしれません。

一定数のサイコパスが人類の中に存在し、普通の人間が躊躇してできないような危険な仕事を行ってきたからこそ、道が拓けた分野もあるということです。いわば人類の暗黒面や汚れ仕事を担ってきたのがサイコパスだったかもしれないというのです。

人間は共感性を持つ不思議な生き物です。しかし自然界ではあまりにも弱い存在で、心を持っている故に善悪に左右され些細なことで葛藤するのではないでしょうか。そこへ自信に満ちたサイコパスが登場し、普通の人にはなし得ないことを善悪を超越して行えば、憧れにも似た感情が湧いてヒーローに祭り上げてしまうのも至極当然です。

最後に

今回取り上げた作品のほかにも『セブン(1996年)』や『ミュージアム(2016年)』にも見受けられる、「善悪の境界」を超えて殺人を正当化しようとするシリアルキラー。サイコパスの要素を濃く持つ彼らは、普通の共感性を持つ人間に善悪が入り混じった世界を見せつけてきます。魅力的なサイコパスに心を奪われすぎない程度に観察し、いつでも善悪の境界を見極められるように心しておきましょう!